2017年4月5日水曜日

科研費のことなど

年度始めですね。研究者にとっては科研費のシーズンです。前年度に申請した書類の採択・不採択の通知をもらう時期なので。周囲で「当たった」「外れた」という声に合わせて「宝くじかよ」というツッコミも聞こえてきます。今年の私は日本にいませんがそういう声が風に乗って聞こえてくるかのようです(笑

それで、嬉しいお知らせを早速いただきました! 田中も研究分担者として加わっている課題が採択されたとのこと。代表は立教大学の河野哲也先生で、こんな企画です。

基盤研究A(平成29~33年度予定):「生態学的現象学による個別事例学の哲学的基礎付けとアーカイブの構築」

生態学的現象学は、河野先生が開拓されてきた理論的立場で、ギブソンの生態心理学とフッサール以降の現象学を架橋するものです。身体と環境の循環的な相互作用という観点から、認知を始めとする人間のさまざまな活動を理解する哲学的な試み、と要約してよいかと思います。

このプロジェクトでは、生態学的現象学にもとづいて「個別事例学」の理論的な基礎付けを行うことと、加えて、さまざまな事例のアーカイブを構築することを予定しています。

個別事例学…名称が少し固いですが、ひとが抱えているさまざまな課題や問題を解決している事例を検討し、それに理論的基礎付けを与えて「学」にしようという試みです。身体と環境との相互作用という観点に着目すると、ひとが自分の抱える問題を解決するときは、環境とのかかわり方を創造的に変化させています(逆上がりのできない子どもが踏み台を使うと簡単にできるようになったりしますが、この場面は文字通り環境とのかかわり方を変えて問題を解決していますよね)。

生態心理学に「促進行為場(field of promoted action)」という概念があります。環境と自己の関係を問題解決に向けて適正化することで行為と学習が促進される場のことです。この「場」が、人々の現実の問題解決場面でどのように現れているのかに着目し、問題解決の事例ライブラリを構築する予定になっています。

ライブラリを作ってどうするかというと…それを一般の人々に公開して利用できるようにしたいわけです。自分が抱えているのとよく似た課題がどのように解決されているかのヒントを、事例ライブラリから探ってもらえるようになれば、創造的なライブラリになりそうですよね。新しい教育・学習のモデルになりうるかもしれません。

もっとも、どのような事例であれば他者にとっても問題解決のヒントになりうるのか、という点についての理論的な考察は必要です。他者の事例は、それを知ることで自分の問題の解決に向けて洞察を与えてくれる場合もあればそうでない場合もありえます。このプロジェクトで重視しているのは、誰にでも当てはまるような(でも実際には誰にも役立たないような)「法則性」ではなく、問題を抱えている当人にとって役立つような「当事者性」です。

具体的なフィールドとして、「対話と思考」「発達」「身体動作・技能」「アート」「ソーシャルワーク」といった分野が想定されています。これからの展開にご期待ください。

私自身も、身体性をベースに人間の活動をとらえなおす「Embodied Human Science」というプロジェクトを自分で進めているので、それを問題解決、学習、教育といったテーマに結び付けて考える良い機会をいただいたと思っています。