2018年7月14日土曜日

近況報告

ごぶさたしています。
 
前回の投稿が6/10ですから、1ヶ月以上このブログを更新できない時期が続いていました。理由はいたって単純です。4月から所属先の部署で主任をまかされているのですが、その事務仕事で忙殺されていてここで何かを書く時間がないのです。主任をやっているおかげで大学の中枢で何が起こっているかがわかる場面も増えましたが、それがわかってもポジティヴな気分になることはまずないです(いまどきの大学が置かれている苦境ばかり知ることになります)。知れば知るほど大学をやめるほうがいいんじゃないかと考えることもあります。まあ、研究にも教育にも専念できないポジションというのはとかく精神的に良くないです。
 
以下、とりあえずこの間の活動記録です。

1) 訳書:コイファー&チェメロ『現象学入門-新しい心の科学と哲学のために』(勁草書房近刊)→校正作業が終わりました。アマゾンのページもできています。黄色でいい感じに目立つ装丁なので仕上がりが楽しみです。

2) ブックプロポーザル:3月に開催したBS-BIのシンポジウム、書籍化に向けて、アタリア、ギャラガーの両氏と動いています。プロポーザルがほぼできました。いい出版社から出せるといいのですが。

3) ちなみに、このシンポジウムは自他表象研究会のメンバーもみんな発表してくれたので、その内容を全員で論文化する作業を進めています。夏休みが終わる頃には投稿できるかなぁ。

4) IHSRC:6月下旬に米国サウスカロライナで開かれたInternational Human Science Research Conferenceに参加して発表してきました。現象学の境界領域で、看護、心理、教育、福祉、哲学、倫理などの関係者が集まっていました。ビジネスミーティングで2021年東京開催を打診し、流れを作ってきました。

6) Human Arenasに投稿する特集論文、レビューが「Minor Revision」で掲載可の結果で戻ってきたのでとりあえず修正して再投稿。去年のISTP東京大会のシンポジウムで話した内容を論文化しました。

6) Routledgeから9月に出る予定の「The Challenges of Cultural Psychology」の自分のパートの最終ゲラが届いたのでさっそくチェックして送り返しました。

7) 去る7月7日に、心の科学の基礎論研究会で、東大精神科の榊原さんが拙著の合評会で評者をつとめてくれました。多様なトピックを扱った本ですが、中身を丁寧に読んだうえで行き届いたコメントをくれて、著者として嬉しかったです。批判に十分に応じていない箇所も残ったかもしれませんが、それは今後の宿題とします。
 
8) トーマス・フックスの『脳のエコロジー』、読書会メンバーとともに読み進めています。ただいま2章に入っています。
 
9) 昨年12月に認知科学会・冬のシンポジウムで話したプロジェクション科学の特集論文をただいま執筆しています。
 
…こうやって記録すると、時間がないながらに活発に活動はしています。といいますか、主任で時間を取られて研究できなくなるのはとにかく悔しいので、睡眠時間を削ってやっているというのが本当のところです。
 
では、また。


 

2018年6月10日日曜日

離人症論文(Tanaka, 2018)とブックガイド

以前ここでもお伝えしましたが、2016〜17年にかけて科研費の助成を受けてハイデルベルク滞在中に主に取り組んでいた離人症についての研究が、ようやく論文になって刊行されました。


「身体から切り離されているとはどういうことか?」という刺激的なタイトルをつけてありますが、離人症の主な症状のひとつである「disembodiment feeling(脱身体感)」を追求したものです。

脱身体感とは、自分が身体から離れたところにいるように感じられる、そこから自分の行為を傍観している感じがする、という症状を指します。文字通りに受け止めると体外離脱的な状態のようにも聞こえますし、心身二元論を支持する経験的事実のように解釈できるかもしれません。…ですが、本当のところはどうなんだろう、そういう理解でよいのだろうか、という疑問に取り組んでいます。

なお、実験的に引き起こされる体外離脱として知られる「フルボディ・イリュージョン」の体験内容と何がどう違うのか比較しながら、解明を試みています。詳細は本文に譲りますが、行為場面での主体感(sense of agency)に着目すると、必ずしも自己と身体が明確に切り離されている状態ではなさそうだ、というのが私の理解です。脱身体感を引き起こしている主な原因は、身体の所有感(sense of ownership)が極度に低下していることに由来していると思われます(その背景には離人症に特有の感情鈍麻があります)。こういう基礎的な理解が、将来の治療のヒントになればと願っています。
 
ところで、離人症については、知人の芹場輝さんがブックガイドを以前作成してくれたので、研究アーカイブに約1年前から掲載していました。掲載当初、洋書の案内もいずれ追加する予定になっていましたが、このたび、大幅に加筆増補したリストができました。

 *離人症・関連書籍

ご覧いただけるとわかりますが、離人症の関連資料について、日本語で書かれたもっとも網羅的なガイドになっています(英語でもこれほど充実したものは見たことがないです)。今回は洋書だけでなく全編が改訂されて、「入門・概説・ルポ編」7冊、「記録編」15冊、「研究書・専門書編」19冊、「治療編」4冊、「文学編」9冊、「映画編」2件、全体で21ページという充実ぶりです(「研究書・専門書編」には恥ずかしながら拙著も含まれています)。これを読むだけでも、離人症がどのような症状をともなう病理であるかを理解できると同時に、その臨床像が決して一様ではないということも把握できる内容になっていると思います。

では、また。


 

2018年6月7日木曜日

7/7に拙著の合評会があります

早いもので、北大路書房から『生きられた〈私〉をもとめて-身体・意識・他者』を出版して1年がたちました。この間、複数の大学院の授業で教科書として使って授業を実施しましたが、わりと好意的なフィードバックを学生からはもらっています(自分で言うのもアレですが)。
 
ひとつの理由はこういうことのようです。心の科学的研究に関連するトピックを取り上げながら、それを哲学的な論点と結びつけて考察を深めていく本って、ありそうでいて実際にはそう多くないのです。科学者が書くものは事実の記述に寄り過ぎているものが多いですし、哲学者の書くものは哲学上の論点が先行して研究上の知見にあまり寄り添っていないものが多いので(私は哲学側から書いていますが、できるだけ科学的研究が解明しようとしている当の主観的経験に沿って考察を進めることを心がけました)。
 
また、心の哲学を背景にするものなら類書はあったかもしれませんが、現象学を背景にするものは少なかったように思います。ギャラガー&ザハヴィの『現象学的な心』はありますが、内容は素晴らしいものの入門書と呼べるほど読みやすいものでもないですし。ちなみに、同じ勁草書房からもうすぐコイファー&チェメロ『現象学入門:新しい心の科学と哲学のために』が拙訳で出ますので、楽しみにしていてください。
 
…というわけで、この1年、拙著は地味ながら堅調に一定の読者に受容されている感じかも、というのが著者自身の見立てです。
 
ところで、そろそろ正式なお知らせが以下の研究会のウェブサイトに出ると思いますが、7/7に「心の科学の基礎論研究会」でこの本の合評会を開催してくださることになりました。評者は、東大精神科の榊原英輔さんです。どんな議論になるのか、楽しみにしています。
 

 

2018年5月20日日曜日

9月発売です-文化心理学関連

すっかり忘れていましたが、2017年1月にこんな記事を書いていました。
うれしい来客

その後複雑な経緯があって(…とジョヴァノビッチさんから裏話を聞いてます)編集が滞っていたらしいのですが、以下のタイトルでRoutledgeからようやく出版されるらしいです。

Gordana Jovanović, Lars Allolio-Naecke, Carl Ratner (eds.) 
The Challenges of Cultural Psychology: Historical Legacies and Future Responsibilities.
London, UK: Routledge.

文化心理学も近年わりと盛んではあるので、いろいろな研究がなされていますが、基本的にはいまだに比較文化的なアプローチが多いように思います。要は、文化を一種の独立変数として事象を説明するようなアプローチですね。

今回出る本は、いわゆる比較文化的なアプローチとは明確に違います。理論的背景を重視しながら「そもそも文化とは」という次元に哲学的あるいは歴史的な観点から切り込んだチャプターがたくさん配置されています。上のリンクから目次を見てもらえばわかると思いますが、第2部ではヴィーコ、ディルタイ、カッシーラーといった哲学者の仕事が取り上げられ、第4部ではロム・ハレやケネス・ガーゲンのような哲学的心理学に近いスタンスの人たちが寄稿しています。

私も「日本的自己」について初めてまとまった文章を書きました(17章に「The Self in Japanese Culture from an Embodied Perspective」のタイトルで入っています)。以前から「西洋的vs東洋的」という二分法に陥らないやり方で、身体性に基礎を置いて自己と文化の問題を考えてみたかったので、ちょうどいい考察の機会を与えていただきました(もう少し詳しいことは上記の「うれしい来客」で読めます)。
 
そういえば、論文ではなく書籍に英文で寄稿するのはけっこう久しぶりです。しかも今回はRoutledgeのようなメジャーな出版社なので、出版された本を手にするのを楽しみにしています。
 

 

2018年5月19日土曜日

レジュメ追加(フックス『脳のエコロジー』)

しばらくぶりに研究アーカイブのページを更新しました。

今回は、ただいま読書会が進行中の Thomas Fuchs "Ecology of the Brain" の序文 (introduction)を追加しました。
https://drive.google.com/file/d/1v4gGBht7zfOp6tEG7nOpSoa7QYb8wa-M/view

論旨は明確なので、ここであれこれ解説を加える必要はないでしょう。リンクをたどって内容をご覧ください。

本書はやはり、神経科学の哲学における新たな動向として、注目すべき内容を多く含んでいるように思います。脳を環境との関係で考える、というエコロジカルな発想は以前からあったように思いますが、それをソーシャル・ブレインおよび間主観性との関連でも論じている点は、私の知る限り例がほとんどないように思います。


 

2018年4月29日日曜日

台湾に行ってきます

去年のいまごろ「イスラエルに行ってきます」と書いていたのですが、今年はGWを使って台湾に行ってきます。
 
これもちょうど去年の今ごろだったように記憶していますが、International Human Science Research Conferenceという国際会議を東京で開催できないかという相談をS・ホーリングというシアトル大学の先生とメールでやり取りしていたのでした。日本語にすると「国際人間科学研究会議」となるでしょうか、現象学に影響を受けて心理や教育や看護などの領域で研究を展開している研究者が集まる学会があります。
 
そのときに、話の流れで日本だけでなく台湾の研究者(東アジアからIHSRCに参加するのは日本と台湾の研究者が多いのです)とも共同できるといいですね、ということになったので、以前から交流のあった台湾の国立東華大学にいる李先生に相談したのでした。李先生は台湾出身でアメリカのデュケイン大学で学位を初めて取った方です。デュケインは知っている人は知っていると思いますが、A・ジオルジが現象学的心理学の学派を立ち上げた場所で、今でも北米では現象学がもっとも盛んな大学のひとつです。そういえば2016年にプラハで会った「The End of Phenomenology」の著者のスパロウさんもデュケインの出身だと言ってました。
 
…それで、話がちょっと脱線気味なのですが、そんなこんなでIHSRC日本開催に向けて李先生と一緒に日本と台湾の研究者の交流を進めることになりました。3月に主催した身体図式と身体イメージのシンポジウムで彼に日本に来てもらったので、こんどは私が現地に行って来ます。現地滞在3日で3大学を回って3講演というなんとも大変なスケジュールなんですが、とりあえず今回は関連分野の研究者のネットワークを広げるために行ってくるという感じです。台湾に行くのはかれこれ15年ぶりくらいなので、街の景観や人々がどんな風に変わっているのか自分の目で確かめたいです。
 

 

2018年4月17日火曜日

コイファー&チェメロ『現象学入門』・続報

この記事からすでに1年以上ですか…

コイファー&チェメロ『現象学入門』
https://embodiedapproachj.blogspot.jp/2017/01/blog-post_29.html

翻訳作業について、ようやく続報です。先ほど、訳者解説まで含めてすべて勁草書房の担当編集者さんにお送りしました! 今回はアメリカで研究中の宮原克典さんと共訳で取り組んでいるのですが、優秀な若手とのコラボは仕事が楽しいし捗るし、やっぱりいいものですね(ちなみに訳業に着手して1年以上経過していますが、翻訳にかけた実時間はかなり短いと思います)。
 
中身のことを紹介する時間が今はないので、興味のある方は上の記事をたどってみてください。現象学と心の科学の接点で書かれた本で、とくに身体性認知科学の未来を占う内容を含む一冊になっています。それを反映して、邦訳は『現象学入門-新しい心の科学と哲学のために』というタイトルで刊行することになりそうです。ともあれ、面白い本ですよ〜
 
さ、これから明日の教授会の準備をしなければ。管理職つら…。