2025年6月30日月曜日

新しい自然の概念

先日読み終えたバラッド『宇宙の途上で出会う』をめぐって、いまだつらつらと考え事をしています。バラッドが論じるエージェンシャル・リアリズムの立場が、メルロ゠ポンティが晩年に書いていた「肉の存在論」に近いように感じて、彼の晩年の講義録を読み直していたら、ありました、量子力学に関する記述が。昔斜め読みしたときは気に留めていませんでしたが、講義録『言語と自然』の中にある「自然の概念」の中で少しだけ量子力学に触れていました。

量子力学では古典力学的な因果律が通用しないのですが、それに言及しつつ、現代科学の中から新しい自然の見方が生まれつつあると指摘しています。ただ、科学それ自体から新たな自然概念が登場するとはメルロ゠ポンティは見ていなかったようで、むしろそれを後押しするには哲学による議論の深化が必要だと見ていたようです。さらに、登場しつつある自然感を掘り下げるのに必要なのが現象学的な知覚理論であり、(明確な言及はありませんが)肉の存在論である、と考えていたようです。ポスト近代科学的な自然観を新しい存在論として提示する、というのが彼の狙いだったのですね。

これはとても重要な着想で、引き続き考えようと思い立った次第です。