2020年8月1日土曜日

書評を寄稿しました

今週の図書新聞に書評を寄稿しています。

図書新聞
第3459号(2020年8月8日)

聞くところによると、前号に掲載されたとある社会学系の書籍の書評がSNSで炎上しているんだそうで(相当に酷評されていることに著者が反撃しているらしい)、それについての編集部の見解が新たにこの号に掲載されています。

そういう話題性に富む(?)書評に比べれば私のものはマイルドで普通の書評です。以下の書を取り上げました。

佐藤義之著『「心の哲学」批判序説』講談社(選書メチエ、2020年4月刊)
書評:「物質から意識を見るか、生命から意識を見るか--進化論を取り入れることで、物理主義に依拠する従来の心の哲学に対して根源的な批判を試みる」

有料ものなのでコンテンツはここで公開できないですが、ご関心のあるかたは上のリンクから読んでみてください。

同書は、心の哲学で主流になっている、いわゆる物理主義から意識を理解する立場(物理世界が因果的に閉じているという見方に立って、神経過程に還元して意識を理解する立場)に対する根源的な批判を試みています。きちんと読めば、物理主義の立場で意識を理解しようとするのがそもそも無謀な試みであることに納得がいくぐらい、よく整理された批判を重ねています。第二部では現象学的な意識の理解が試みられていますが、それよりも第一部の「心の哲学」批判の部分が良いですね。

個人的には、大学院生の頃に意識科学の議論に関心を持って調べ始めた頃から「ハードプロブレム」は疑似問題だよなぁ、という感じを持ち続けて今に至ります。なので心の哲学のように物理主義から意識を理解する試みそのものに乗れず、現象学から身体の問題を考えてきました。ポイントは、ハードプロブレムはやはり心身問題の焼き直しなので設定そのものを退ける必要があって、心身問題を「身身問題(body-body problem)」として再整理するところに現象学の役割がある、ということです。

このあたりの事情は、これも講談社選書メチエからいずれ出版される共著『心の哲学史(仮題)』の担当章に整理して書いておきました。共著といっても各章6〜7万字詰め込まれてますから、私の章も薄い書籍分ぐらいの分量はあります。お楽しみに。