待ちに待った刊行で、すごく嬉しいです! どのくらい待ったかは以下のポストを見ていただければ。
私も寄稿者の一人なのですが、当初の原稿を書き上げてすでに4年半経っています。執筆していたのはコロナ禍が始まった頃なので、かなりの時が流れました。なにせ編者の村田先生・渡辺先生含め執筆者が9名いますから、原稿の足並みが揃わなくでこれだけ時間がかかったわけです。
おそらく、本書は時間をかけてじわじわと読者を広げていくものになると思います。『心の哲学史』というタイトルがややまぎらわしいですが、本書は「心の哲学」の歴史を扱ったものではありません。編者お二人の名前から想像がつくとおり、「心の科学」を哲学史の観点から捉え直す試みです。
近代の心理学はヴントから始まるというのが定説になっていますが、そのヴントが『生理心理学綱要』を刊行した1874年、ブレンターノが『経験的立場からの心理学』を刊行しています。そしてブレンターノこそ、現象学を生み出したフッサールの師であり、他方ではゲシュタルト心理学派の源流に当たる人物なのです。
ブレンターノ〜現象学〜ゲシュタルト心理学と続く「心の科学と哲学」は、現代の身体性認知科学やギブソンの生態心理学へと連なっています。メインストリームの心理学と認知科学から離れた場所で、現象学という豊穣な哲学的思考につながった「心の科学」が脈々と受け継がれてきているのです。
ヴントとブレンターノの関係まで遡るとともに、最も新しい身体性認知と生態心理学まで、現象学を背骨として体系的に歴史を通覧している本書のような書物は、私の知る限り、海外でも類書はほとんどないと思います。その意味で日本の研究の水準の高さを知っていただける一冊になっていると思います。しかも本文638ページで税込3520円ですから、破格の安さです。
本書を紐解くことで、自ら「新しい心の科学と哲学」に挑戦してくれる次世代の若手が現れてくれることを心待ちにしています。