早いもので、北大路書房から『生きられた〈私〉をもとめて-身体・意識・他者』を出版して1年がたちました。この間、複数の大学院の授業で教科書として使って授業を実施しましたが、わりと好意的なフィードバックを学生からはもらっています(自分で言うのもアレですが)。
ひとつの理由はこういうことのようです。心の科学的研究に関連するトピックを取り上げながら、それを哲学的な論点と結びつけて考察を深めていく本って、ありそうでいて実際にはそう多くないのです。科学者が書くものは事実の記述に寄り過ぎているものが多いですし、哲学者の書くものは哲学上の論点が先行して研究上の知見にあまり寄り添っていないものが多いので(私は哲学側から書いていますが、できるだけ科学的研究が解明しようとしている当の主観的経験に沿って考察を進めることを心がけました)。
また、心の哲学を背景にするものなら類書はあったかもしれませんが、現象学を背景にするものは少なかったように思います。ギャラガー&ザハヴィの『現象学的な心』はありますが、内容は素晴らしいものの入門書と呼べるほど読みやすいものでもないですし。ちなみに、同じ勁草書房からもうすぐコイファー&チェメロ『現象学入門:新しい心の科学と哲学のために』が拙訳で出ますので、楽しみにしていてください。
…というわけで、この1年、拙著は地味ながら堅調に一定の読者に受容されている感じかも、というのが著者自身の見立てです。
ところで、そろそろ正式なお知らせが以下の研究会のウェブサイトに出ると思いますが、7/7に「心の科学の基礎論研究会」でこの本の合評会を開催してくださることになりました。評者は、東大精神科の榊原英輔さんです。どんな議論になるのか、楽しみにしています。
た