2018年9月30日日曜日

旅の余韻

出張続きの9月でした。いまもまだ余韻の中にいます。
 
9月中旬、ハイデルベルクで「Time, the Body, and the Other: Phenomenological and Psychopathological Approaches」というカンファレンスに参加。トーマス・フックス氏の年来の研究者仲間が集まるアットホームな雰囲気の会議でした。現象学と精神医学というサブタイトルがついていますが、名だたるエナクティヴィストもたくさん来ていて(Hanne De Jaegher, Ezequiel Di Paolo, Tom Froeseといった面々)、彼らのトークを聴きながら、動きと行為を出発点にして自己と世界をとらえることの意味を改めて考えました。私は少し違った文脈で対人恐怖症について話したのですが、そちらにもいろんな方からコメントをもらえて励みになりました。ちなみにショーン・ギャラガーの講演が行われたアルテ・アウラ(1886年に建てられた建学500周年の記念講堂)の雰囲気がとても良くて、束の間「学問の殿堂」にいる気分に浸りました。
 
下旬、日本心理学会で仙台へ。大会中日は大学を抜けられなかったので泣く泣く日帰り。しかも出番が二回あったので25日・27日と日帰り二回でした。今回の大会はいずれも心理学と哲学の中間領域に関係するシンポジウムで、一件は現象学と心理学史、もう一件は科研費のプロジェクトに関連する「個別事例学」の企画でした。初日は40人弱、3日目は立ち見の出る盛況で、「日心も変わったなぁ」と感じた大会でした。10年前なら、こんなに哲学寄りの企画ではこの半数くらししか人が集まらなかったと思います。質的研究が強くなったこと、再現性問題をきっかけに心理学の方法の問い直しが進んでいること、意識や自己といった研究領域では心理学と哲学の問題意識が重なること、等々、いろんな要因が背景にありそうですが、私のように心理学の哲学を手がけてきた研究者からするとこの変化は歓迎すべきものに感じます。この種の議論を通じて新たな知が生まれてくることを信じて、今後も議論を続けたいと思います。
 
そして最後に大阪。認知神経リハビリテーション学会に参加してきました。とても得がたい経験でした(関係者の皆様にお礼申し上げます)。大会前日の28日夜に大阪入りして関係者の懇親会に参加したのですが、会長の宮本先生や重鎮の森岡先生、生理研から来られていた吉田先生とずっと議論をしていました。身体性をめぐって、意識の謎をめぐって。で、それはその日だけでは終わらず、大会1日目それぞれの講演の前後に楽屋でもずっと続くという感じで、長い長い座談会をやっていたような感じでした。レセプションでも若いPTやOTの皆さんから答えきれないくらい多くの質問をいただいて、ひたすら答えていたら何も食べる間も無く終わってしまいました。皆さん患者さんの身体に日々真摯に向き合っておられるからか、身体経験についての(哲学的な次元を背後に含む)深い質問ばかりでした。「病態を深化する」という大会テーマもこれには関係していたと思います。病態を深く理解することは、現象学的身体論とも響きあうテーマです。私も触発されて多くの問いと思考を持ち帰ってきたので、これから自分の言葉にしたいと思っています。
 
というわけで、旅の余韻が終わらないまま、10月に入ろうとしています。