2018年2月4日日曜日

戦利品♪

待ちに待った一冊が届きました。
Thomas Fuchs (2018). Ecology of the brain: The phenomenology and biology of the embodied mind. Oxford, UK: Oxford University Press.
(トーマス・フックス『脳の生態学-身体化された心の現象学と生物学』)
  
しばらく前からオンライン読書会を開きますとお伝えしていたのですが、原著が届かないので企画そのものが滞っていました。
 
以前も書きましたが、この本が重視しているのは、まさに脳のエコロジーであり、脳の生態学的な基盤です。脳が知覚や認知にとって重要な役割を果たしている器官であることは間違いありませんが、人が知覚・認知する世界をすべて脳内の表象に還元するような見方は、脳の持つ生態学的な位置づけを無視して脳の役割を過大視し過ぎています。そうではなくて、身体を含む有機体全体の一部とし脳を位置づけると、身体と環境の相互作用、自己の身体と他者の身体の相互作用、人々が共有する文化的世界へのアクセスなど、脳は、生命体としての人と世界とを「媒介する器官(mediating organ)」として重要な役割を果たしていることが理解できます。こういう基本的な見方についてきちんと哲学的な基礎づけを与えている点も本書の魅力ですが、現在の神経科学の知見への批判、さらに、その再解釈と位置づけ直しといったことに言及している点や、未来の心の科学のあり方への展望を拓いている点も、本書の魅力であろうと思われます。

読書会は来月くらいからゆるゆる動き出そうかと思います。

ところで、「戦利品」とタイトルに書いたのは意味があります。じつは、推薦文を書く仕事を頼まれたのですよ、とっても光栄なことに! 和書で言うと、帯に入れる推薦文を書くようなものです。洋書の場合は背表紙に何人かが推薦文を入れることが多いのですが、届いた現物を見るとこんな感じになっていました。
 

見えづらいですね。上から三つめが私の書いたものです。最初オックスフォード大学出版局の担当編集者の方から連絡をもらったときに「至急endorsementを書いてください」という依頼があったのですが、「え、endorsementって何? 手形の裏書? 手形を切った覚えはないけどな」なんてことしか頭に浮かばなかったのでした。背表紙に入れる推薦文なので「裏書」と呼ぶのですねぇ、知りませんでした。

それにしても、光栄な話です。裏書を寄せているのは4人いますが、「エナクティヴ・アプローチ」で有名なディ・パオロ、精神医学の哲学のマシュー・ラトクリフ、ミラーニューロンの研究で知られる神経科学のヴィットーリオ・ガレーゼ、というすごい面々に混じって、なぜか無名の私のような人間が入っています。いちおう「身体性認知」の分野からお情けで一人入れてもらった、って感じでしょうかね。

まあでも、私にとっては、オックスフォードから出る本に推薦文を寄稿したというのは、研究を実直に続けてきて勝ち取った戦利品、という感じで鼻高々な気分なのです。