2019年1月17日木曜日

松前重義学術賞をいただきました

2018年度の松前重義学術賞をいただきました。松前重義賞は、東海大学の創立者松前重義氏を記念した賞で、「学術、文化、スポーツの各部門で、建学の精神に基づく顕著な成績を収めた学園の学生、生徒、児童、園児、教職員および卒業生を顕彰するもの」(大学HPより)だそうです。なかでも学術賞はもっとも権威ある賞とのことで、ありがたく思うと同時に身の引き締まる思いです。

今回は所属先の所長である成川忠之先生からご推薦をいただいたのですが、その時点では受賞はないだろうと思っていました。というのも、歴代受賞者のリストは大半が医学系や理工系のハイ・インパクトな研究をしている先生方で占められていて、人文社会系はほとんど見当たらないからです(歴史学の三佐川亮宏先生の名前は見つけられますが、ドイツ史研究で日本学士院賞を受賞された雲上人ですからね…)。
 
私も東海大学に着任してすでに10年以上で、振り返るといろいろな仕事をしてきましたが、研究は自分がいちばん熱心に取り組んできた活動なので、それがこのような形で表彰されたことは素直に嬉しいです。この場を借りて、大学の関係者や、学内外のさまざまな場面で研究を支援していただいている皆さまに深くお礼申し上げます。つねづね、研究は一人でするものではなくていろいろな方々とのコラボレーションを通じて初めて形になるものだと思っていますので、ここでのお礼はたんに形式的なもの以上の強い意味を込めています。
 
学術賞の対象となった研究課題は、「身体性人間科学の構想と展開」です。これは、進行中の科研費のプロジェクト「Embodied Human Scienceの構想と展開」をそのまま日本語にしたものですが、簡単にいうと従来の「身体性認知科学」の立場を人間科学にまで拡大するところに主眼があります。

身体性認知(embodied cognition)は1990年代に確立された心の見方で、心を、環境から切り離された「内界」、身体の奥に隠れた「内面」として見るのではなく、身体性・行為・スキルに立脚してとらえ直そうとする立場です。

この立場を推し進めていくと、そもそも心と身体を分離するのではなく、心・身体・環境を連続的にとらえる、より統合的な人間観が必要になります。なので「心理学」「認知科学」という名称ではなく、「身体性人間科学」というコンセプトで進めているのが近年の私の研究です。この観点から見えてくる「自己(self)」については、昨年『生きられた〈私〉をもとめて』(北大路書房)にまとめました。また、他者理解については「Theory & Psychology」誌に論文を複数発表しています("Intercorporeality as a theory of social cognition" "Intercorporeality and aida"など)。今回の受章はこれら一連の業績に対するものです。

いずれにしても、私の研究は心の見方を変えること、そこから始まる新しい人間観を立ち上げることにかかわります。東海大学は近年、人々のQOL(quolity of life)の向上に資する大学づくりを目標に掲げています。今後の私の研究もそれに多少とも貢献できるものになればと思います。

ところで、授賞式(昨日ありました)がすごくフォーマルなものだったので驚きました。場所は霞ヶ関ビルの最上階のフロアにある大学の校友会館で、学長や副学長はじめ、学校法人の理事のようなお偉方がお揃いでした。松前重義賞は、学術研究だけでなく、芸術、スポーツ、教育など学園のすべての活動を対象にしたものということで、それぞれの方面で優れた仕事をされている方々が一堂に会していました。もちろん先の箱根駅伝でチームを優勝に導いた両角速監督も。そういう方々が集まる場所だけあって、授賞式後の懇親会も華やいだ雰囲気と重厚感がともに感じられる味わい深いものでした。
 
懇親会には大学行政の重鎮がたくさんおられたので、「人間科学の研究所を作らせてください」と各方面にお願いしてきました。さて、実現する日は来るのでしょうか…