以下、ご報告です。
今年の6月に明治大学の嶋田総太郎氏を代表として申請したJST-CRESTの研究課題がめでたく採択されました。田中は、主たる共同研究者として畿央大学の森岡周氏と共に名前を連ねております。
2023年度 戦略的創造研究推進事業(CREST)の新規研究課題及び評価者について
研究課題名称は以下です。
(英) Narrative embodiment: neurocognitive mechanisms and its application to VR intervention techniques
(日) ナラティブ・エンボディメントの機序解明と VR 介入技術への応用
日英表記になっているのは国際共同研究プロジェクトだからです。今回は、CRESTとフランスANR(国立研究機構, Agence Nationale de la Recherche)の連携プロジェクトに応募したものなので、英語版は日本側とフランス側で内容を揃える、というなかなかハードルの高い申請でした。申請前にフランス側のチームと何度もオンライン・ミーティングを重ね、細かいところまで詰める努力を重ねたので、今回の採択は本当に嬉しいです。
プロジェクトの骨子ですが、リハビリテーション場面を対象にして、患者のナラティブ・セルフのあり方が予後にどのように影響するかを現象学的に解明し、その成果をVRに応用することでより効果的なリハビリ介入技術の開発につなげるというものです。以下のビジュアル・アブストラクトがわかりやすいかもしれません。
昨年、神経理学療法学会のシンポジウムに登壇した際に少しだけ話したのですが、認知神経科学の知見を参照するリハビリテーション技法はすでにかなり発展してきているものの、現場に残された課題に、患者さんのナラティブをどう扱うかという問題があります。リハビリテーションの予後と、患者さん一人一人の多様なナラティブやナラティブに基づく自己のあり方は、かなり深い関係があると思われますが、今のところ経験則を超えてきちんと検証された知見はありません(例えば自己効力感が高い患者さんのほうが予後が良さそうだ、といった経験則はあるのです)。身体性と物語性を結ぶものが現状では科学的に解明されていないのですから、当然と言えば当然ですよね。今回のプロジェクトは、この点に科学的に挑戦するものになります。認知神経科学とリハビリテーションだけではなく、患者さんの体験世界に迫るうえで現象学的な質的研究を用いる計画になっています。現象学的なインタビューを日仏双方で実施して、データの分析を進める予定です。患者さんの多様なナラティブ・セルフのあり方とリハビリテーション過程の相関を理解することが目標です。
近く東海大学でもポスドク研究員を募集します。現象学を学んだ経験のある方で、質的研究とリハビリテーションに研究領域を広げていく意欲のある方を求めております。公募情報は近くJREC-INで公開しますので、そちらをご覧ください。研究員の仕事に関心のある方は個人的にお問い合わせいただいても構いません。きっと、プロジェクトに参加すること自体が充実した経験になるだろうと思います。
よろしくお願いします。