今日は自分の論文の話題。けっこう時間がかかりましたが、間身体性と「あいだ」について考察した論文が出版されました。掲載誌は理論心理学系のジャーナル『Theory & Psychology』です。
Intercorporeality and aida: Developing an interaction theory of social cognition
Shogo Tanaka, First Published April 9, 2017
アブストラクトはこんな感じです。
The aim of this article is to develop an interaction theory (IT) of social cognition. The central issue in the field of social cognition has been theory of mind (ToM), and there has been debate regarding its nature as either theory-theory or as simulation theory. Insights from phenomenology have brought a second-person perspective based on embodied interactions into the debate, thereby forming a third position known as IT. In this article, I examine how IT can be further elaborated by drawing on two phenomenological notions—Merleau-Ponty’s intercorporeality and Kimura’s aida. Both of these notions emphasize the sensory-motor, perceptual, and non-conceptual aspects of social understanding and describe a process of interpersonal coordination in which embodied interaction gains autonomy as an emergent system. From this perspective, detailed and nuanced social understanding is made possible through the embodied skill of synchronizing with others.
簡単に言うと、社会的認知は以前は「心の理論」を中心に議論がされていました(今もあまり変わっていません)。理論説とシミュレーション説の論争もありましたが、どちらも身体性が欠けている、という批判があります。では、身体性から出発して社会的認知や他者理解を論じるとどうなるのか、というと…説明するのがちょっと面倒になってきたので、そのうち紹介ページでも作ります。とりあえず、昔の研究会で使ったこんな資料を日本語でざっと見てもらうと、何が論点なのかつかんでもらえそうです。
2011 年 2 月 26 日:2010 年度第三回身体知研究会(RMEK)資料
他者理解の科学と現象学―心の理論から間身体性へ
今回の論文は、メルロ=ポンティの間身体性に、木村敏氏の「あいだ」概念をつなげて、考察をさらに発展させたものになっています。身体的な相互行為をベースとして、自己と他者のあいだで創発する間主観性の領域がある、というのが主題です。
…しっかし、長かったです。投稿したのが2016年の2月で掲載が昨日ですから、約14ヶ月かかっています。先日デンマークに出張した際にも、なんでこの雑誌は査読にこんなに時間がかかるのか、酒の席で話題になっていました(半年待たされてリジェクトされたからここには二度と投稿しない、という強烈な恨み節?も耳にしました)。
たしかに、投稿してから掲載まで1年を超えるような雑誌だと、もらっている研究費の成果報告書に書けない場合も出てきますから書き手からすると不満です。自然科学系だとこんなに時間のかかるジャーナルは作れないでしょうね。出版されるころには内容が古くなっているでしょうし。
ですが、個人的にはこの雑誌は気に入っています。査読がちゃんと機能していて、査読者が本文を読み込んでけっこう本気なコメントが帰ってきます。私は今回が2回目の投稿でしたが、前回も今回もコメントはかなりまともで、手続き的にも内容的にも、自分の至らない箇所をふみこんで指摘されました。怖いですねぇ〜(笑
ではありますが、こういう査読のおかげで自分の書くものが出版前に一定のクオリティを保てるわけですし、査読者もたいていの場合はボランティアで査読を引き受けてくれているわけなので、やはりありがたい話なのですよ。テキトーな査読者に原稿が当たらない限りは。
た
2017/06/08
本日、無事印刷バージョンが出版されました。ページ番号を含めて、論文情報をアップデートしておきます。以下のリンクからPDF版をダウンロードできますよ。
Intercorporeality and aida: Developing an interaction theory of social cognition. Theory & Psychology, 27, 337-353.