2017年6月3日土曜日

論文読み読み

昨日から大量の論文を読んでいます。自分の研究に直接関係ないものも多いのですが、某ジャーナルで特集号を組むことになっていて、その編集を引き受けているためです。
 
で、いろんな人の書いた文章を読んでいると中には「ん?」と思うものも出てきます。引用符のなかに著者自身の書いた文章を何度も引用している論文を見つけたのです。
 
" ............ " (Name, 20XX, p. ##)
 
読んだ時の違和感がうまく言葉にできなかったのですが、あえていうと「珍妙」な感じと言えばいいんでしょうか。説明するとこういうことになるんだと思います。

論文で引用符をつけたり、段落として引用する場合、基本的には他者の文章を引用します。そもそも引用は、(A)他者の書いた文章について出典を明記して剽窃を避ける、という意味を持つ行為なので、それが他者の文章になるのは当然ですよね。これに加えて、批判するのであれ、論述にとっての傍証にするのであれ、引用することで、(B)過去の研究者のオリジナルな知見に一定の敬意を払う、という慣例的な意味もあると思います。
 
ここで、他者の文章を自己の文章に置き換えて、自分の書いた文章をそのままカギ括弧をつけて引用すると、(A')自己剽窃していないことを明示する、というポジティヴ(?)な機能を持つ一方で、(B')自分の過去の研究に対して自分で敬意を払っている、という意味にも受け取れます。私が「珍妙」な印象を受けたのはこの二つが入り混じった印象を受けたからのように思います。もうちょっと言うと、「正確さを期した自画自賛」とでも言えばいいんでしょうか。
 
もちろん、自分の書いた文章を自分で引用する例というのも、見かけることはあります。たとえば、ある分野で他の研究者が多く引用している著名な論文で、それが論争になっているような場合なら、自己引用をしてもういちど自分の主張を正確に伝えるという意味はあります。あるいは、自分の過去の主張を訂正するさい、 何を訂正するのか正確にするためにその箇所を引用するような場合。あとは、自分の代表的な業績をピンポイントで紹介する場合でしょうか(でもこれができるのは自分の業績に相当自信がある場合でしょう)。
 
今回はどれにも当てはまらないので、なんとも珍妙な読後感でした。直接お会いする機会があればどういうつもりで書いたのか著者に確かめてみようと思っています。その前にエディターとして対応せねばなりませんが。