2019年3月10日日曜日

『味わいの現象学』

面白そうな本が出ましたね。

村田純一『味わいの現象学-知覚経験のマルチモダリティ』(ぷねうま舎)2019年

いちばん面白そうでかつ全体にとっても勘所になっていそうな箇所(6章1節「触覚と身体」)はノートを取りながら読んだので要約をアップしておきました。研究アーカイブのページからどうぞ。

触覚を近感覚に分類し、視覚や聴覚から区別するというのが心理学での常識的な見方です。が、あらゆる感覚にはそれを伝える媒質が必要だとするアリストテレスの考え方からすると、皮膚が接触して触覚が生じるという見方は成り立たない、触覚を伝える媒質は身体(肉)である。6章はこんな議論から始まります。

詳しくは本文に譲りますが、6章のこの個所は、ギブソン、フッサール、メルロ=ポンティの知覚論と身体論を結ぶ要の議論が展開されていてとても面白いです。一方で、触覚にも視覚や聴覚と同じような「射映」の構造があるとしながら、他方で、触覚は自己との結びつきや世界内存在を支える仕掛けになっているという本書の主張には、見るべきものが大いにあると思います。

個人的には身体図式が知覚において果たしている役割について、納得するところが多々ありました。ご恵贈いただいた村田純一先生にこの場を借りて感謝いたします。


 

2019年3月9日土曜日

インゴルドと「あいだ」のシンポジウム(3/24 立教池袋)

こんにちは。
約2週間後ですが、インゴルドと「あいだ」のシンポジウムが立教大学で予定されています。

3/24 14:00〜17:00
インゴルドと「あいだ」のシンポジウム
http://kao-shintai.jp/news/files/20190324_Sympo.pdf
立教大学池袋キャンパス1号館1104教室

人類学者ティム・インゴルドさんの翻訳プロジェクトが現在進行中で、今回はそれに関係するシンポジウムです。固定された分野を軽やかに飛び越えるインゴルドさんの仕事にちなんで、人類学、哲学、心理学、教育学の分野からパネリストがそろう貴重な議論の機会になります。

田中は14:50〜15:30のセッションで指定討論のような形での参加になると思います。何を話すかまだ何も考えていないのですが、「あいだ」については言いたいことはいろいろあるので、準備はそんなに困らないかも、と思っています。

年度末の慌ただしいタイミングですが、関心のある方はぜひお越しください。
 


2019年3月8日金曜日

単著の進捗

お久しぶりです。前回の投稿から早くも1ヶ月が過ぎてしまいました。

この間何をしていたかというと、いろいろと迫ってくる大学の事務仕事の合間をぬって単著の執筆にもっぱら取り組んでいました。現在、2020年の4月刊行を目指して動いている企画があるのですが、その1章と2章、60ページ分くらいの執筆が終わったところです。さらにその合間に短い原稿をいくつか書いたりシンポジウムでの講演をこなしたりしていたので、まあ私にしては順調に進んでいるほうです。

内容とは関係ないですが、この間に身についたスキルがあります。私はもともと研究室で事務仕事をこなしながら原稿を書くということがまったくできない人間でしたが(自宅の書斎でしか執筆できませんでした)、できるようになったのです。

ひとつ単純なコツがあることに気づきました。研究室にいるさいに電話がかかってきたり人が訪ねてきたりすると、そこで自分の思考がいちど途切れるので、結果的に原稿が進まなくなります。自宅にいても電話はかかってきますが、書斎では自分の身体がすぐに執筆モードに戻れるので原稿が書けていたのです。研究室は電話に加えて人が来るので、自分の注意がどうしても対人関係に大きく割かれてしまって、執筆モードに戻るのに時間がかかります。しかも、身体がもともと「人の持ってくる案件に対応すること」に向かって潜在的に構えているので、そもそも執筆モードに入りづらい。
 
それで、授業期間が終わったのを境にそういう構えそのものを意識的にやめてみることにしました。人が来ようが、電話がかかってこようが、デフォルトの身体モードは執筆する状態に保っておく。自宅の書斎にいるときと同じモードで身体を使うのです(脳のモードと違って身体のモードは意識的なコントロールがききやすいようです)。大学の事務仕事を「研究と執筆の合間に対応すべきこと」としてモードを切り分けてしまえばよいのでした。図々しくなるってこういうことなんだなぁ、とも思いましたが…

というわけで、この1ヶ月ぐらい大学にいるときの身体のモードを切り替える訓練をしながら、研究室でしつこく執筆していました。昨年の4月に管理職になった頃は、大学にいる時間が長くなって研究はできなくなるなぁ、とよく思ったのですが、それから1年近く自分なりに工夫を重ねてなんとか両立する様なスキルを身につけ始めました。よかったよかった(といってもワークライフ・バランスが崩れて家族に迷惑をかけているのですが…)。
 
というわけで、来年の今頃には刊行直前でゲラの校正が終わるところまで仕上げていたいなぁと思っています。乞うご期待。