2022年1月26日水曜日

もうすぐ出せる、かな?

次の単著、紹介ページが出来ました。長いですが以下がフルタイトル。

『知の生態学の冒険〜J・J・ギブソンの継承3:自己と他者-身体性のパースペクティヴから』

ギブソンの仕事をきちんと継承したものになっているか、やや心もとないですが、『知の生態学』の試みであることは確かです。認知神経科学や発達科学の知見をたくさん取り入れていますが、それらがつねに「脳-身体-環境」という連環の中でどのような意味を持つのかという視点を大事にしていますので。

内容紹介をそのまんまコピーしておきます。
「身体性に関連する認知科学・神経科学の主なトピックを取り上げ、自己と他者の身体的な相互作用を生態学的現象学から考察する。脳内過程ではなく、「脳―身体―環境」というエコロジカルな連続性のもとでの身体的経験の理解を通じて自己と他者が出会う社会的環境を描き直す。」

東大出版会のページを見ると発売日が3月23日になっていますが、間に合うのでしょうか。じつはこれから二回目の校正に着手するところだったりします。一回目の校正で手を入れた箇所がけっこうあったので、スムーズに運ぶかどうか…。

2022年1月18日火曜日

画面越しの再会

今日、北海道大学のCHAINでハイデルベルク大学のThomas Fuchs氏を招いてオンライン・レクチャーがあった。タイトルは「今日における現象学の意義」。私はFuchs氏とは旧知の間柄ということで、レクチャー後のディスカッション部分でモデレーターとして参加した。

コロナ前の2019年にお会いしたのが最後だったと思うので、かれこれ3年ぶりぐらいの再会。画面越しに見るFuchs氏はやや老けた印象があったが、語りのほうは以前と変わらずとても明晰で、現代の心の科学との関係で現象学の果たしうる役割を以下の3点にわかりやすくまとめておられた。老けた分だけ「老大家」みたいな雰囲気はやや増した感じだったかもしれない。

1) 認知神経科学との対話:主流派の表象主義的な考え方からすると、心が脳内の神経過程に還元されてしまうが、現象学は「生きられた身体」に着目することで、脳と身体の相互作用がもたらす「生きている感じ(feeling of being alive)」から意識の発生過程に取り組む。脳と身体のユニットである「生きられた身体」はまた、知覚-行為循環を通じて環境と相互作用しており、意識現象を脳・身体・環境という拡張された系のもとでとらえることができる。

2) 社会的認知の捉え直し:心の理論やシミュレーション説など、主要な社会的認知の理論は、他者の心を内的に隠されて直接アクセスできないものと前提している。現象学的に見ると、自己と他者は「身体化された相互行為(embodied interaction)」を通じて出会っており、その文脈のもとで、他者の身体は意図や感情を表出している。日常の相互行為の文脈では他者は内面と外面に区別できず、他者の心は直接知覚の対象として現れる。

3) 精神病理学:生きられた身体の現象学から出発することで、精神病理学に新たな知見をもたらすことができる。特に統合失調症の症状は「脱身体化(disembodiment)」をキーワードとして理解を改めることができる。身体化された暗黙のスキルが解体されること、他者とのスムーズな身体的相互行為が解体されること、これらのdisembodimentが症状の中心に見て取れる。

レクチャーの内容はざっとこんな感じだった。レクチャー終了後に質疑応答の時間を取ったが、そちらも大変盛況だった。質問が出なければ自分が何か質問しないとなぁ、と構えていたのだけど、結局終了時刻をオーバーしても質問が続くぐらい盛り上がっていた。

画面越しではあれ、旧知の先生と再会できたのは嬉しかったし、彼の暖かい人柄が語りから伝わってきて、旧交を温められた感じがしたのがなお良かった。ちなみに、今日のレクチャーは彼が2018年に出版した『Ecology of the Brain』の内容に沿ったものだったが、日本でももっと彼の仕事が知られるようになって欲しいものである。

2022年1月7日金曜日

遅くなりましたが新年のご挨拶

1月7日ということでお正月も最終日。遅くなりましたが新年おめでとうございます。今年もよろしくお願いします。

私は年末のハードスケジュールが祟って2日から体調を崩しておりました。年末に「年を越したい…」の記事で書いていた通り、年末ぎりぎりの31日午前中に仕事が片付いて久々に「年越し」を味わえたのは良かったのですが、やっつけ仕事の無理が出たのでしょうね。ホッとして元日を家族と迎えて二日になったら夕方から熱が出てしまいました。微熱が出たり下がったりの繰り返しで、昨日の午後ぐらいからようやく平常運転に戻ったところです。

昨年もいろいろとありましたが、特に所属先のカリキュラム改訂の仕事に追われっぱなしで、学務の合間を縫って研究するしかない一年でした。ただ、3年越しで関わった書籍『Body Schema and Body Image: New Directions』の出版にこぎつけることができたのは無上の喜びでした。旧友のYochai Ataria、Shaun Gallagherの両氏と一緒に企画書を書くところから始め、3年半かかって一件の仕事を完結するまで大変な労力を要した仕事だっただけに、喜びもひとしおでした。

他方、やっぱり時間が取れなくて結局続けられなかった仕事もありました。YouTubeチャンネルがそうです。 4月の終わりぐらいから始めて夏頃まで動画を取りましたが、夏場に私が体調を崩して以降はまともに時間を取れず、9月半ばからは更新できずにいます。とりあえず講義サプリとして使用する上での役割はひと段落ついたので、こちらは大半の動画をいったん非公開にしました。更新しない間もなぜかチャンネルの新規登録者数が微増しているので、そのうち近況報告のような動画を上げるかもしれません。

ともあれ、今年もいろいろあると思います。そうそう、告知になってしまって申し訳ありませんが、今年は新しい単著が5年ぶりに出ます。『自己と他者――身体性のパースペクティヴから』というタイトルを予定しています。1回目の校正はすでに終わっていますから、年度が変わる4月~5月にはには何とか出版できる見通しです。

というわけで、この記事を読んでくれた皆様のご多幸を年頭に願いつつ。