2025年6月30日月曜日

新しい自然の概念

先日読み終えたバラッド『宇宙の途上で出会う』をめぐって、いまだつらつらと考え事をしています。バラッドが論じるエージェンシャル・リアリズムの立場が、メルロ゠ポンティが晩年に書いていた「肉の存在論」に近いように感じて、彼の晩年の講義録を読み直していたら、ありました、量子力学に関する記述が。昔斜め読みしたときは気に留めていませんでしたが、講義録『言語と自然』の中にある「自然の概念」の中で少しだけ量子力学に触れていました。

量子力学では古典力学的な因果律が通用しないのですが、それに言及しつつ、現代科学の中から新しい自然の見方が生まれつつあると指摘しています。ただ、科学それ自体から新たな自然概念が登場するとはメルロ゠ポンティは見ていなかったようで、むしろそれを後押しするには哲学による議論の深化が必要だと見ていたようです。さらに、登場しつつある自然感を掘り下げるのに必要なのが現象学的な知覚理論であり、(明確な言及はありませんが)肉の存在論である、と考えていたようです。ポスト近代科学的な自然観を新しい存在論として提示する、というのが彼の狙いだったのですね。

これはとても重要な着想で、引き続き考えようと思い立った次第です。

2025年6月23日月曜日

インタラクションとイントラアクション

買ってから1年以上積読になっていたカレン・バラッド『宇宙の途上で出会う』を読みました。ニールス・ボーアの量子力学をめぐる思索を「エージェンシャル・リアリズム」という独自の哲学的立場に発展させた一冊です。分厚いですが、すごく読み応えのある本でした。

フェミニズムにも影響を受けている著者なので身体についてもっと言及があるかと思いきや、実際にはそうでもないところが個人的には物足りなかったです(最後の章に出てくるクモヒトデの例が多少は参考になりました)。晩年のメルロ゠ポンティが「肉」という概念で考えたかった存在論はエージェンシャル・リアリズムの立場にも近いように思われるので、肉と身体の関係を考えていけば、読後に物足りなかった点を自分自身で考えられるかな、などということをぼんやりと考えています。

他方、バラッドが「エージェンシー」という概念を生物から物質へと拡張しているのですが、このアイデアはエナクティビズムの拡張と親和性があるように思います。生物が行為を通じて自己と環境を差異化し、相互作用(インタラクション)を通じて環境を認知している様子は、宇宙が内部作用(イントラアクション)を通じて自己自身を差異化しつつ物質・時間・空間を構成し、自己自身を認知している様子とパラレルに理解できそうです。

ともあれ、読みながら考えたことを自分でも形にせねば、と思わせてくれる一冊でした。


2025年6月12日木曜日

インタビュー記事が出ました

このたび、『日本バーチャルリアリティ学会誌』に記事が掲載されました。


若手研究者の畑田裕二さんがインタビューをもとに記事にしてくださったものです。ミニマルセルフとナラティブセルフ、経験を記述する言葉、身体図式など、VR研究と現象学の接点について、ツボをおさえた話になっていると思います。短いですが読み応えはあると思いますので(畑田さんの質問のおかげです)、ぜひご覧ください。