2019年7月16日火曜日

IHSRC 2021 Tokyo

先月末、ノルウェーのモルデで開催された国際会議 (38th International Human Science Research Conference) に参加してきました。

モルデは北緯62度、しかも訪れた時期が夏至直後ということで、夜らしい夜がなくほぼ白夜に近かったです。初めての経験だったのですが、1週間現地にいるとかなり疲れました。というのは、深夜もずっと空が明るくて、ホテルのカーテンもなぜか薄く、眠りについても明け方まで何度も目が覚めてははっとして時計を見る、ということを毎晩繰り返していたからです。明るさ〜暗さのサイクルがいつもと違うので、「何時間寝たか」というのが覚醒時の明るさで直感的にわからないのですよね。

それで、表題の件です。昨年の大会に行った時に東京での開催を関係者に話してみて好感触だったので、今回は正式にビジネスミーティングで2年後の東京開催について提案してきました。…で、めでたくその場で承認されました!「東京開催なら参加したい」との声も複数寄せられ、とても好感触でした。北緯62度の街まで足を伸ばした甲斐がありました。

この学会は、現象学を中心とする人間科学、とくに心理・教育・看護・福祉などの関連分野の方々が集まって議論している場所です。現象学に由来する質的研究を実践する研究者が集まる学会としては、国際的にはもっとも長い伝統を持っていると思います。隔年で北米とヨーロッパを往復して開催されていて、アジアでは過去に一度だけ2001年に東京で開催されています。次の2021年は20年ぶり二度目のアジア開催、しかも40回目という記念すべき回になります。

これから準備が大変になりそうですが、関連する研究分野のみなさまは期待してお待ちください。日本で蓄積されている研究成果を国外に発信する貴重な場になることと思います。現役の研究者だけでなく、大学院生にも発表の場を広く開放したいと思っています。


 

2019年7月3日水曜日

合同研究会案内 (7/27 明治大学駿河台)

以下の通り、7月27日(土)に明治大学にて研究会を開催することになりました。今回は質的研究との接点で現象学について考えてみます。2016年に田中・渡辺・植田のチームで翻訳・刊行したD・ラングドリッジ『現象学的心理学への招待-理論から具体的技法まで』(新曜社)がとても近いテーマを扱っています。質的研究にご関心のあるみなさま、広くご参加をお待ちしております。
 

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心の科学の基礎論研究会(第85回)&エンボディードアプローチ研究会(第8回)・合同研究会

<シンポジウム「質的研究のための現象学とナラティヴ心理学」>
質的研究にかかわる研究者や臨床家のあいだでは、現象学もナラティヴ心理学も、一人称的観点からの語られる経験の記述を重視する方法として受け入れられてきた。現象学は、先入見を除いてありのままの経験に接近することを重視する。ナラティヴ心理学は、当事者による経験についての語りを内在的に理解しようとする。研究の焦点に違いはあるものの、「人々が経験していることの意味」の解明を目指している点では共通していると思われる。このシンポジウムでは、理論、臨床、事例研究など、それぞれが依拠する観点から現象学とナラティヴ心理学を論じ、質的研究における両者の交流を促進する機会としたい。

日時:2019年7月27日(土),14時〜17時
場所:明治大学駿河台キャンパス,研究棟4階・第1会議室
(https://www.meiji.ac.jp/koho/campus_guide/suruga/access.html)

プログラム
 司会:植田嘉好子(川崎医療福祉大学)
 14:00-14:10 趣旨説明:田中彰吾(東海大学)
 14:10-14:50 話題提供1  田中彰吾(東海大学)
  「ナラティヴ・アイデンティティと現象学的研究」
 14:50-15:30 話題提供2  渡辺恒夫(東邦大学)
  「「コミュ障」の批判的ナラティヴ現象学」
 15:30-15:50 休憩
 15:50-16:30 話題提供3  セビリア・アントン(九州大学)
  「自覚のための教育—ライフ・ストーリー面談とナラティヴ・セラピー面談の比較研究」
 16:30-17:00 ディスカッション
  指定討論者:森直久(札幌学院大学)

講演要旨
1)「ナラティヴ・アイデンティティと現象学的研究」田中彰吾(東海大学)
 よく知られるように、ナラティヴの概念は認知心理学者のブルーナーが1980年代に提起したもので、「ナラティヴ様式」は科学的研究を支える「論理-科学的様式」には還元できないとされる。この主張は、人間行動の科学的法則を探る量的研究とは区別して、人々の発する語りにもとづく質的研究を促進するものになっていた。ここから各種のナラティヴ・アプローチが派生することになるが、この発表で着目したいのは「ナラティヴ・アイデンティティ」の概念である。哲学者のリクールは、人々がみずからの人生について物語る行為が、物語の主人公としての自己アイデンティティを構成する点に注目している。人生を語るナラティヴには、自分の生きてきた過去を振り返り、将来の生き方の可能性をさぐることで、時間的に一貫した自己を構成する作用がある。現象学的心理学のラングドリッジは、リクールの考えを発展させ、社会的文脈との関係で語られざるままにとどまっている自己を読み解く方法を「批判的ナラティヴ分析(Critical Narrative Analysis, CNA)」として提唱している。この報告では、ブルーナーとリクールの考えを再度整理したうえで、CNAを中心としてナラティヴ心理学と現象学が連携する質的研究のあり方について考察する。

2)「「コミュ障」の批判的ナラティヴ現象学」渡辺恒夫(東邦大学)
 現象学とナラティヴ心理学は両立不可能と見なされることが多いが、リクールとラングドリッジの批判的ナラティヴ分析に基づいて考案された「批判的ナラティヴ現象学」では、現象学とナラティヴ分析が「地平融合」の過程で互いに収斂することを、「コミュ障」研究を通じて示す。このスラングは若い世代によって、「非社交的」「対人スキルに乏しい」を意味する自嘲語として広く用いられている。本研究(渡辺、2019)では社交上の困難を訴えてオンライン上の援助を求め、読者がアドヴァイスする4事例が検討された。ナラティヴ分析によって全テクストは「垂直的ナラティヴ」対「水平的ナラティヴ」に分類された。前者では問題の原因が当事者の意識外に求められるため専門家の介入を要する。原因を「資本主義的生産様式」や「脳の不調」に求めるマルクス主義的ナラティヴや医科学的ナラティヴが代表だ。水平的ナラティヴでは原因は地平(=視座)が違えば異なる相を見せる。読者とのやり取りの過程を通じて多くの「水平的ナラティヴ」に接することで自尊感情を回復し、重要な自己洞察に達する例に、現象学的な「地平融合」が認められる。

3)「自覚のための教育―ライフ・ストーリー面談とナラティヴ・セラピー面談の比較研究」  セビリア・アントン(九州大学)
 森昭(1915-1976)は戦後の日本教育学会を主導した教育哲学者のひとりである。森はプラグマティズムと実存主義を調和させ、その上に人間科学(特に発達心理学)を加え、「教育人間学」のアプローチを確立した。そのアプローチは教育における「自覚」「覚醒」を強調したが、その方法は「ナラティヴ教育学」と言える。森は二つの異なるナラティヴ教育を要求した―全体的なナラティヴ・アイデンティティのための教育、および、より流動的・偶然的なアイデンティティのための教育である。本発表において、私は、以上の二つのナラティヴ教育に相当するナラティヴ面談を考察したい。第一は、Dan McAdamsの「ライフ・ストーリー面談」(2008)である。理論的に見て、これは森の発達的教育論に類似している。第二は、マイケル・ホワイトとデイヴィッド・エプストンのナラティヴ・セラピーである。この方法は、教育カウンセリングにも応用されており、森の後者のナラティヴ教育に近い。私はこれを、Critical Narrative Analysisに類似した形で質的研究の面談として使えるものと考えている。以上をふまえ、最後に、ナラティヴ教育の授業(大学院)で取得した、両面談の(準備段階の)データを比較し、この二つのナラティヴの具体的な相違点と類似点を検討したい。
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2019年7月1日月曜日

立正大学哲学会 (7/6 立正大学品川)

またしばらく放置していたら月が変わってしまいました。
今週土曜日に以下のイベントがあります。

立正大学哲学会・2019年度春秋大会
2019年7月6日(土) 13:30-18:20
立正大学品川キャンパス 9号館地下2階 9B23教室
 

16時から武内大先生の講演「星の魔術-現象学的元型論の展開」があり、田中はそこで特定質問者として登壇します。

現象学とユング心理学の関係は、大学院生のころにずいぶん考えたのですが、その後ずっと放置していました。今になってまた考え直すことになるとは…。諸般の事情で準備の時間があまり取れないので、当日ご講演を伺いながら元型について久々に考えたいと思います。知覚的現実と想像的現実の関係が焦点になりそうな予感がしますが、どうなることやら。