2025年6月23日月曜日

インタラクションとイントラアクション

買ってから1年以上積読になっていたカレン・バラッド『宇宙の途上で出会う』を読みました。ニールス・ボーアの量子力学をめぐる思索を「エージェンシャル・リアリズム」という独自の哲学的立場に発展させた一冊です。分厚いですが、すごく読み応えのある本でした。

フェミニズムにも影響を受けている著者なので身体についてもっと言及があるかと思いきや、実際にはそうでもないところが個人的には物足りなかったです(最後の章に出てくるクモヒトデの例が多少は参考になりました)。晩年のメルロ゠ポンティが「肉」という概念で考えたかった存在論はエージェンシャル・リアリズムの立場にも近いように思われるので、肉と身体の関係を考えていけば、読後に物足りなかった点を自分自身で考えられるかな、などということをぼんやりと考えています。

他方、バラッドが「エージェンシー」という概念を生物から物質へと拡張しているのですが、このアイデアはエナクティビズムの拡張と親和性があるように思います。生物が行為を通じて自己と環境を差異化し、相互作用(インタラクション)を通じて環境を認知している様子は、宇宙が内部作用(イントラアクション)を通じて自己自身を差異化しつつ物質・時間・空間を構成し、自己自身を認知している様子とパラレルに理解できそうです。

ともあれ、読みながら考えたことを自分でも形にせねば、と思わせてくれる一冊でした。


2025年6月12日木曜日

インタビュー記事が出ました

このたび、『日本バーチャルリアリティ学会誌』に記事が掲載されました。


若手研究者の畑田裕二さんがインタビューをもとに記事にしてくださったものです。ミニマルセルフとナラティブセルフ、経験を記述する言葉、身体図式など、VR研究と現象学の接点について、ツボをおさえた話になっていると思います。短いですが読み応えはあると思いますので(畑田さんの質問のおかげです)、ぜひご覧ください。


2025年5月31日土曜日

Phenomenology and the Cognitive Sciences

6月1日付で、SpringerNatureから刊行されている学術誌「Phenomenology and the Cognitive Sciences」の編集委員会メンバーに新たに参加することになりました。すでにホームページに反映されていますので、1日早いですが公表しておきます。

この雑誌は2002年に刊行が始まり、今年はVolume 24が発行されています。もともとShaun GallagherとDan Zahaviが始めた雑誌で、現代現象学を代表するジャーナルになります。私はこの雑誌で自分の論文を今まで発表したことがないのですが、これを機に何か書こうかと思っています。

海外のジャーナルの編集委員は何件もやっていますが、査読がしんどいなぁと感じることが近年増えました。自分の勉強になっているのでその点ではありがたいですが、年齢のせいか、最新の研究でもそれだけでは面白いとは感じなくなりつつあります…。自分自身が新しいものを追い求めるよりも、これまでの学びをまとめるべき年齢になりつつあるからなんでしょうね。

でも、いくつになっても新たな学びに開かれた姿勢を持ち続けたいものでもあります。そういう思いもあって、今回の依頼は引き受けることにしました。良い論文に出会えることを楽しみにしています。

2025年5月19日月曜日

こころの科学とエピステモロジー vol.7

オンラインジャーナル『こころの科学とエピステモロジー』の第7巻が刊行されました。田中は何年か前からほとんど名ばかりで編集長を仰せつかっておりますが、この雑誌が今まで刊行を継続できているのはひとえに渡辺恒夫編集部長のおかげです。この場を借りてお礼申し上げます。

J-STAGE版

また、本誌では「こころの科学とエピステモロジー奨励賞」を授与しております。博士課程の大学院生やポスドク研究員など若手の皆様は今後も奮って本誌にご投稿いただければ幸いです。

2025年5月15日木曜日

メールは復旧しました

前回ここでお知らせしてから1ヶ月近く経ちますが、大学アドレスのメールがようやく通常通り使えるようになりました(「@tokai.ac.jp」のアドレスです)。

使えるようになったのはいいのですが、セキュリティを厳格化したため数時間に1回ぐらいの頻度でスマホに入れたMicrosoft Authenticatorを利用する2段階認証が行われるという状態で、なかなかに使い勝手が悪いです…  しかも新しく配布されたパスワードが記憶できないくらい長い… 利便性とセキュリティは両立しない、と言わんばかりです。

2025年4月19日土曜日

メールについてのお願い

すでにニュースになっていますが、所属先の東海大学が17日木曜にサイバー攻撃を受け、大学のネットワークを停止しています。

これに伴い、所属先のアドレス(@tokai.ac.jpのアドレス)にはメールが届かなくなっております(実際には届いているようですがサーバーにプールされているらしく、私は判断がつきません)。

田中宛のメールは当面のあいだ、こちらで公開しているアドレス(shg.tanaka@gmail.com)にお願いします。

それにしても、授業や業務で使用するネットワークがすべて利用できない状態で、あれこれと対応が大変なことになっています…

2025年4月9日水曜日

夢ナビ動画

先日、大学広報の一環で高校生向け動画を収録したのですが、編集が終わって無事公開されました。



高校生向けの学問案内サイト「夢ナビ」の一部として収録されています。高校生向けなので語りは分かりやすくしてありますが、内容は「心」の本質をめぐる哲学的な内容になっていますので、大人にも楽しめるのではないかと思います。

取り急ぎご報告まで。

2025年4月1日火曜日

年度始め

前回の更新から1ヶ月以上経ってしまいました。気づけばすでに4月で新年度ですね。前回の更新からこの間、論文が2本公開されていますのでご紹介しておきます。

田中彰吾「現象学的認知科学の可能性」『学ぶと教えるの現象学研究』第21号,pp. 73-83.

田中彰吾「パラスポーツを通じた他者理解と共生」『パラリンピック研究会紀要』第23号,pp. 1-20.

前者は身体性認知科学の理論篇、後者は身体性認知科学の応用問題としてパラスポーツを考えたものです。特に後者は、冒頭でオートエスノグラフィーとして自分の体験について(河合純一氏に出会ったときのこと)書いております。ご一瞥いただければ幸甚です。

なお、今年度も東海大学文明研究所の所長は継続となります。今までと変わらぬご支援を賜りますよう、よろしくお願い申し上げます。

2025年2月22日土曜日

ウェブサイトができました

ただいま進行中のJST-CREST「Narrative Embodiment Project」 のサイトができました。




https://narrabody.org/

冒頭に掲示されている通り、このプロジェクトは「物語(ナラティブ)的体験がトップダウンに身体的自己に影響を与える現象を「ナラティブ・エンボディメント」と定義し、そのメカニズムの解明を目指します」という趣旨のものです。

主要な着眼が「物語→身体」というトップダウン方向の影響関係に置かれていますが、「身体→物語」というボトムアップ方向を無視しているわけではありません。念のため。

ただいま、本研究の一部として、リハビリテーション過程における身体性と物語性の関係に迫るべく、脳卒中患者さんにインタビューを試みているところです。その成果はいずれ発表や論文などで公になりますので、お楽しみに。


2025年1月6日月曜日

身体性認知とは何か

しばらく更新できないうちに早くも2025年になっていました。明けましておめでとうございます。

年末年始は溜まっていた宿題をあれこれこなすうちに終わってしまったのですが、そのうちのひとつが翻訳書の仕上げでした。3月ごろになると思いますが、以下のような訳書が刊行されます。

ショーン・ギャラガー『身体性認知とは何か——4E認知の地平』(田中彰吾訳)東京大学出版会,2025年

今日ようやく再校用のゲラの確認が終わったところです。もともと原著は2023年に出版されたもので、82ページのコンパクトな一冊の中で、身体性認知(embodied cognition)、埋め込み認知(embedded cognition)、拡張性認知(extended cognition)、エナクティブ認知(enactive cognition)という4Eの動向すべてについて言及したものになっています。目次の写真を以下に掲載しておきます。














 
 
身体性や4Eについて日本語で読める書籍は現状ではほぼありませんので、本書は初めての入門書になるかと思います。訳して全体を日本語で読み直してみると、本文はやや専門性が高いような印象も受けたので、訳者として本文への導入を冒頭に40ページぐらい付けておきました。合わせてご覧いただけると幸甚です。

今年も縁ある皆様にとって良い一年でありますように。

2024年11月9日土曜日

歴史的な一冊が出ます

本日、見本が届きました。




















 
 
待ちに待った刊行で、すごく嬉しいです! どのくらい待ったかは以下のポストを見ていただければ。

私も寄稿者の一人なのですが、当初の原稿を書き上げてすでに4年半経っています。執筆していたのはコロナ禍が始まった頃なので、かなりの時が流れました。なにせ編者の村田先生・渡辺先生含め執筆者が9名いますから、原稿の足並みが揃わなくでこれだけ時間がかかったわけです。

おそらく、本書は時間をかけてじわじわと読者を広げていくものになると思います。『心の哲学史』というタイトルがややまぎらわしいですが、本書は「心の哲学」の歴史を扱ったものではありません。編者お二人の名前から想像がつくとおり、「心の科学」を哲学史の観点から捉え直す試みです。

近代の心理学はヴントから始まるというのが定説になっていますが、そのヴントが『生理心理学綱要』を刊行した1874年、ブレンターノが『経験的立場からの心理学』を刊行しています。そしてブレンターノこそ、現象学を生み出したフッサールの師であり、他方ではゲシュタルト心理学派の源流に当たる人物なのです。

ブレンターノ〜現象学〜ゲシュタルト心理学と続く「心の科学と哲学」は、現代の身体性認知科学やギブソンの生態心理学へと連なっています。メインストリームの心理学と認知科学から離れた場所で、現象学という豊穣な哲学的思考につながった「心の科学」が脈々と受け継がれてきているのです。

ヴントとブレンターノの関係まで遡るとともに、最も新しい身体性認知と生態心理学まで、現象学を背骨として体系的に歴史を通覧している本書のような書物は、私の知る限り、海外でも類書はほとんどないと思います。その意味で日本の研究の水準の高さを知っていただける一冊になっていると思います。しかも本文638ページで税込3520円ですから、破格の安さです。

本書を紐解くことで、自ら「新しい心の科学と哲学」に挑戦してくれる次世代の若手が現れてくれることを心待ちにしています。

2024年9月28日土曜日

「eスポーツの身体論」(田中,2024)

また例によって1ヶ月近く更新できないまま時間だけが過ぎましたが…

新しい論文が出ました。

田中彰吾 (2024)「eスポーツの身体論-コンピュータに媒介される拡張身体の経験」『思想』2024年10月号(no. 1206)pp. 162-177

急に依頼されて時間のない中でとにかく書き上げたものなので「やっつけ」感が否めないかもしれません。が、ともかくeスポーツの基本になる論点はおさえてあると思います。とくに日本では「eスポーツはスポーツか?」という問いがいまだに問題になりがちなのですが、この原稿では「スポーツである」という立場を明確にして論じています。

そもそも、この問いが問いになる以前に、情報化する社会のなかでスポーツ経験そのものが情報技術によって媒介され変質しつつある現実があるわけなので、eスポーツをスポーツから除外しようとする問題意識のほうがむしろ近代スポーツのイデオロギーにとらわれているのだろうと思います。ことにVRが発展した未来においてはスポーツとeスポーツの境界はどこまでも曖昧になることでしょう。この論考がそういう未来の身体について垣間見る一助となれば。


2024年8月30日金曜日

共著『生きられた身体のリハビリテーション』

先ほど担当編集者の方から刊行の連絡があったので、こちらでもご報告しておきます。

田中彰吾・本田慎一郎
協同医書出版社,2024年9月25日発売
  



















 
先ほど協同医書のホームページに掲載されたばかりです。いつもは出版社の公式ページに載るより早くアマゾンにページができるのですが、今回はアマゾンに勝ちました(笑 だいたいいつもゲラの校正をやっている段階でアマゾンにページができるのですが、本書は校正も終わっていますし書影も先に出ているので、完勝ですね。
 
今回は、作業療法士の本田慎一郎さんとの共著です。冒頭1/3ぐらいが第一部で、身体性と自己をめぐる田中のレクチャーになっています。残り2/3が第二部で本田さんとの対談で、第一部の内容を実践的に深められる構成になっています。

以下、部分的にホームページから転載しますが、
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『豚足に憑依された腕 -高次脳機能障害の治療-』の著者、セラピストの本田慎一郎と、『生きられた〈私〉をもとめて -身体・意識・他者-』の著者、哲学者の田中彰吾によるリハビリテーションと現象学との実り豊かなコラボレーション!
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まさにこういう内容の本です。

生きられた身体、身体図式と身体イメージ、ミニマルとナラティブ、エナクティビズム、間身体性など、現象学とリハビリテーションを結ぶうえで重要なキーワードになりそうなポイントをめぐって対談が進展しています。ちょうど、JST-CRESTのプロジェクトで、認知神経科学・リハビリテーション・現象学を結ぶ「ナラティブ・エンボディメント」が進行中ですので、その最初の成果と言ってもいいかもしれません。
 
ところで、本田さんとの出会いは2018年の認知神経リハビリテーション学会に遡ります。懇親会でたまたまご一緒してあれこれ話し込んだのが最初だったのですが、セラピストになるまで&なってからの本田さんの過去の経緯を聞いているうちに不思議な感慨を覚えました。私は彼とは表面上はまったく違う人生を送ってきたのですが「ああ、あの時自分もこの選択ではなくあの選択をしていれば彼のような人生を過ごすことになっていたのではないか〜」という感慨です。言ってみれば、「このような生き方をすることもありえたもう一人の私」ですね。

本田さんの質問によって、リハビリテーション領域の皆さんにとって普段は聞きなれない哲学の概念がかなりわかりやすく伝わる構成になっているのではないかと思います。逆に現象学にとっては、それが生きた哲学になるかどうかが試される現場こそリハビリテーションにあるように思います。

どうぞお楽しみに。

2024年8月7日水曜日

書評が出ました(『身体と魂の思想史』)

拙著『身体と魂の思想史』を毎日新聞の書評で取り上げていただきました。

毎日新聞・今週の本棚

歴史家に拙著を取り上げていただいて恐縮です。見出しには「現代人の茫漠たる不安感を示す」とあります。第5章で取り上げた身体イメージの問題に注目すると、確かにそういう標題の付け方になるのかもしれません。

7月27日に書評として掲載されていたそうですが、著者自身にはどこからも連絡がなくてこの件については知らず、たまたま仕事のslack上でつながっているある先生に数日前に教えてもらった次第です。さっそく有料記事に会員登録してアクセスして中身を読んでみました。なるほど、古代ローマ史の大家である本村先生の目にはこのように映ったのか〜、という感想。キリスト教文化圏の霊肉二元論に関連づけて、現代の心身論の位置を論じられていました。本文よりも射程の大きい議論の中に拙著を位置づけていただき、ありがたい限りです。

おかげさまで、今のところ堅調に売れているようです。昨日たまたまアマゾンのページを見たら「講談社選書メチエ」の枠でランキング1位になっておりました。カスタマーレビューも比較的好意的なもののようです(今のところ、かもしれませんが)。

新聞といえば、いつもお世話になっている東海大学新聞の川島さんにも、本書について記事を書いていただきました。ホームページ掲載バージョンへのリンクを貼っておきます。

こちらは東海大学の創立者、松前重義の建学の理念にも言及して本書を紹介してくれています。確かに、ニーチェが「大きな理性」という言葉に託して考えようとした身体の智恵は、松前さんが考えていたことにも一脈通じているような気がします。

というわけで、引き続き本書を紐解いていただければ幸甚です。

2024年7月26日金曜日

Aware & Alive での講演

先日、北大のCHAINで開催された国際シンポジウム「Aware and Alive」に参加してきました。


私はロボットの意識について話してきました。Chat GPTを搭載したヒューマノイドAMECAの映像を手がかりに、ロボットが自己意識を持ちうるか考察しました。

当日の発表がYoutube上で公開されていますので、よろしければご覧ください。