2026年6月24日水曜日

Tanaka (2026) "Aidification of the Self"

このたび、新しい論文が出版されました。


近年、生成AIの発展によって、「AIに意識はあるのか」「AIは自己を持ちうるのか」という問いが盛んに議論されています。しかし、その多くは、人間の自己をモデルとして、機械の内部に自己や意識を探そうとする立場に立っています。本論文では、こうした見方に対して、別の視点を提案しています。

私たちの自己は、他者との相互作用を通じて形づくられ、世界との関係のなかで変化し続けています。とりわけ、自分の顔を直接見ることができないように、私たちは他者のまなざしを通じてはじめて、自分自身を知ることができます。機械(フィジカルAI)の自己もまた、機械の内部に閉じたものではなく、人間との関係のなかで生まれるのではないでしょうか。

本論文では、この考え方を 「Aidification(あいだ化)」 という造語で呼んでいます。Aidificationとは、人間とAIが相互作用を重ねるなかで、両者が共有する現実を形成し、その過程で新しい自己や知性が生み出されていくプロセスを意味します。

本論文で私が最も強調したかったのは、「自己は機械の内部にあるのではなく、人間と機械の「あいだ」に生まれる」ということです。人間とAIが互いに影響し合いながら、新しい自己、新しい知性、そして新しい世界を共につくっていく――そのような可能性を本論文では探究しています。

アイデアは萌芽的ですが、フィジカルAIの未来を考えるうえで重要な論文になってほしいという願いがこもった論文です。上記リンクからPDFをダウンロードできますので、ぜひご覧あれ。

2026年6月17日水曜日

コイファー&チェメロ『現象学入門』第4刷のお知らせ

嬉しいお知らせです。宮原克典さんと共訳の『現象学入門』の第4刷になります。勁草書房さんからお送りいただいた原本が昨日届いたのですが、奥付けでは発行が6月20日となっています。今回も本文に変更はなく、巻末のプロフィールのみの変更です。

『現象学入門--新しい心の科学と哲学のために』勁草書房(初版2018年,原著初版2015年)

ステファン・コイファー,アントニー・チェメロ(著),田中彰吾,宮原克典(訳) 

2018年の初版刊行から年月が経ちますが、2026年の今なおこうして版を重ね、新しい読者のもとへ届き続けていることは、訳者の一人として嬉しい限りです。読者のみなさまと出版社の関係者のみなさまに感謝いたします。

本書(コイファーとチェメロの原著)が息長く読まれている理由は、本書が「フッサール、ハイデガー、メルロ=ポンティが何を言ったか」を解説するだけの哲学史の教科書ではないから、という理由が大きいと思います。本書は、現象学が認知科学や心身問題を解き明かすための、現在でもアクチュアルな思考のツールだということを明晰な論理で示しています。特に、身体性認知科学やエナクティビズムに関心を持つ方々にとって、本書は確かな見取り図を提供しています。

未見のみなさま、ぜひこの機に手に取っていただければ幸いです。