こんにちは、田中彰吾(東海大学文化社会学部教授/大学院文学研究科長/文明研究所所長)です。身体性に関連する哲学と心理学を研究しています。各種お仕事のご連絡はshg.tanaka@gmail.comまでお寄せください。
2021年10月10日日曜日
査読した
2021年10月8日金曜日
訳者みずからレジュメ作り
『他者のような自己自身』第9研究
手短に。
同僚でフッサール研究者の村田憲郎氏と続けている読書会、ポール・リクール『他者のような自己自身』ですが、ようやく第9研究まで読み終えました。6月から第9研究を読み始めたのですが、ページ数が長いうえにお互い学内業務で忙しく、結局この章を読むだけで4ヶ月かかってしまいました。
第9研究(リクール『他者のような自己自身』)
レジュメだけでじつに19ページの長さです。こんなものを読む人はいないかもしれませんが、しかし、いつか誰かが見るかもしれないので公開しておきます。こういうものを置いていても物理的な空間を占めないところが電子ファイルの良さですね。
2021年9月18日土曜日
アイデア満載の論文
以前このブログで理化学研究所の入來篤史先生のラボを訪問したさいのことを書きました。
ご一緒した青山学院の鈴木宏昭先生も交えて、人類進化についていろいろと根源的な事柄を議論させてもらいました。その際の議論を入來先生が中心にまとめられた論文が出版されました。京都大学が発行している心理学の欧文誌「PSYCHOLOGIA」に掲載されています。J-STAGEからアクセスできます。
Atsushi IRIKI, Hiroaki SUZUKI, Shogo TANAKA, Rafael BRETAS VIEIRA, Yumiko YAMAZAKI
副題に「認知心理学、神経生物学、現象学からの洞察」とある通り、人類進化をめぐって学際的な議論が展開されています。焦点は、ヒトはなぜアフリカを出て地球上の広範囲に生息地を広げたのか、さらには文明を各地で同時多発的に形成し始めたのか、という点にあります。
「三元ニッチ構築」(神経ニッチ、認知ニッチ、環境ニッチが相互作用しつつ全体として進化する)という理論を入來先生は以前から展開されていますが、田中は「環境ニッチ」に対応する論考を分担しました。
身体性認知から見ると、脳は「身体-環境」の相互作用の文脈に埋め込まれることでその機能を発揮しているように見えます。ヒトならではの「身体-環境」の相互作用には、直立二足歩行したこと、それにより前後軸-上下軸が分岐して「地平線」を発見したことがあります。
直立して歩くには自己の立脚点を参照し、自己身体を世界空間内に明示的に位置づける必要があります。これは、自己身体を対象化し(身体イメージを作る)、さらに自己を世界に投射(プロジェクション)して位置付ける認知活動と密接に関わっていると思われます。つまり、身体認知、自己意識、世界内存在という一連の認知能力はすべて「直立二足歩行」という連環のなかにあるわけですね。
こういう議論は、1980年代に活躍した身体論研究者の市川浩がすでに着想として持っていたのですが、人類進化という文脈に落とし込んで議論した現象学者は皆無だったと思います。
詳細はぜひ上記論文をご覧ください。二次体性感覚野の神経科学研究、認知におけるプロジェクション科学の研究と連動して人類進化の問題が論じられています。これだけ文理融合的で豊かなアイデアを高いレベルで統合している論文はなかなか例がないだろうと思います。
2021年9月12日日曜日
備忘録
2021年7月17日土曜日
Philosophy & Cultural Embodiment
身体性に関心のある若手研究者の皆さん向け情報。科研費・新学術領域研究の「顔・身体学」のプロジェクトで欧文誌が新たに創刊されました。研究者の方ならどなたでも投稿できますので、ぜひ原稿をお寄せください。
Philosophy & Cultural Embodiment
文化について身体性の観点から考察したい方、逆に身体性について文化の観点から考察したい方、哲学分野に限らず投稿を受け付けています。編集長に立教の河野哲也先生、ボードメンバーにはアントニー・チェメロやショーン・ギャラガーの名前も並んでいますよ。
上のリンクから創刊準備号をご覧になることができます。田中も「Boyond the "body-in-the-brain"」というタイトルで寄稿しました。幻肢を脳内現象に還元する見方を批判して、中枢-末梢を統合する見方を追求しています。また、幻肢を動かせることの意味や、幻肢の形の知覚についても見解を提示してあります。
ぜひご覧ください。
2021年7月6日火曜日
オックスフォードから出版されました!
前回記事からもう1ヶ月以上過ぎてしまいました。前回はあっという間に6月になっていたのですが、6月は5月よりさらに学内業務に追われてあっという間に7月が来てしまいました。ご無沙汰していてすみません。
それで、近況をここにつらつら書く暇もないので端的にお知らせを。3年越しで盟友のY・アタリアとS・ギャラガーとともに編集に取り組んでいた「Body Schema & Body Image」がついにオックスフォード大学出版局から刊行されました!
自分の業績を過去3年ぐらい振り返ると、間違いなくこれが一番の目玉になる仕事だと思います。目指したのは、身体性に関連する分野の研究者、とくに身体図式または身体イメージに関連する仕事を手がける研究者にとって里程標になるような仕事です。今後、body schemaまたはbody imageというテーマで研究している人はこの書に収録されている関連論文を読まないと最前線には立てませんよ!ぐらいの内容を目指しました。本当にクオリティの高い原稿を集めたので、実際そういう内容になっています。若手で頑張っているみなさんは、ぜひこの書に収録されている諸々の論文を乗り越えて先に進んでください。本書を無視して身体図式や身体イメージをうんぬんする研究者は今後モグリ扱いですよ〜
世界の第一線で活躍する研究者の原稿に混じって、日本で研究している自分の仲間たちの原稿をこの本に収録できたことも、個人的にはとても誇りに思っています。もちろん、私自身も「Body schema and body image in motor learning」というタイトルで1章を寄稿しています。皆様ぜひ目次だけでもご覧ください。
OUPウェブサイトのTable of Contentsに進むと目次が見られます
お知らせを書く時間しか本当に取れないので、今日はこれにて。
2021年6月3日木曜日
リクール『他者のような自己自身』第8研究
あっという間に6月。来年度のカリキュラム改革準備とコロナ対応とで大学の仕事に追われているうちに5月は過ぎてしまいました。グチってる暇もなく日々が過ぎていくばかりです。こんなことばかりに追われていると自分がだんだんアホになっていくような気がするので、気を取り直して読書会の話題を。村田憲郎先生による力作の『他者のような自己自身』第8研究のレジュメをアップしました。
「良い生き方」という倫理的目標が、「なすべきこと」という道徳的規範のテストにかけられる、というのがざっくりとした第8研究の趣旨です。…が、うーん、この章は今まで読んできた中で一番難解でした。カントの道徳理論が主題的に取り上げられているのですが、カントそのものというよりリクールのカント解釈が延々と繰り広げられていて、門外漢の私はついていけませんでした。それでなくても日々の業務でアホになっている中で読書会に合わせて自分を学者モードに戻すのは本当に大変です。
ただ、よく理解できた(気がする)のは、カントが「自律」「目的としての人格」「定言命法」から始めて理性によって基礎づけようとした道徳が、そのままでは完結できないというか、感性や情動や受動性といった次元を巻き込まざるを得ないような穴を持っているということです。まあ、当然といえば当然のことかもしれませんが、裏を返すと、道徳的規範もまた身体的存在としての人間どうしの関係から基礎付ける必要があるということです。それは一般的な関係性の中にある道徳を考えるときには当然の問題なのですが、他者のレベルが抽象化して「制度のレベルでの正義」を考えるときにはカントのやり方とは違った難しさをともなうはずです。メルロ゠ポンティのように身体的存在から始める哲学者が、社会契約や国家についてうまく語りきれていないように見えるのも、この点に関連しているように思います。
2021年5月15日土曜日
博士論文ってたいへん
昨年以降、大学院で博士論文の審査を引き受けるようになりました。昨年度は東海大学の同僚でもある鷹取勇希さんが文明研究専攻に提出された学位論文の主査をお受けしました。英文で300ページ近い大作で、最初から最後まで読み込むのが大変でした。もちろん書いている本人はもっと大変なのでしょうけれど、より良い論文にするために隅々まで読み込んでコメントする作業もなかなか大変でした。
どこまで改訂すれば学位に値するのかという判断をつけながら全体を読み込んで不足箇所を指摘するのは、ある意味で自分がどのような基準で学問をとらえているのかを自覚する作業でもあります。他人の学問への甘さは自分の学問への甘さであり、他人の学問への厳しさは自分の学問への厳しさでもあります。甘さと厳しさの両極のあいだで、「何が学位に値するか」を考えながら読み込むのは自分にとって新たな発見が多くありました。
また、仕事をお受けして、改めて自分の博士論文を審査した先生方も大変だったのだろうなと思いを馳せました。とくに私の博士論文はユングの共時性といういわば「鬼門」にあたるテーマを扱っていたので、なおさらだっただろうと思います。学位を取得して20年近くたって、改めて指導していただいた先生方に深く感謝した次第です。
…で、なんでこんな記事を書いているのかというと、ただいまカリフォルニアにある某大学院の学生の博士論文のexternal reviewer(学外の副査)をお受けしているからです。ちょうど明日までに全体を読み込んでコメントを返さねばならないので、昨日今日で「ボディワークにおける触れる経験」についての長大な博士論文を読んでいました。ワンテーマで書かれた200ページ以上の論文を読んでいるとさすがに頭の中がその主題一色になりますね。上がりきった脳内のボルテージを下げるために、ここに記事を書いて気分転換してみたのでした。
論文はハンズオン・ヒーリングにおける「触れる」経験を扱っているのですが、ボディワーカーにインタビューした内容を質的に分析していて、ものすごく深い内容になっています。どうやら、触れる経験というのは「気がふれる」という言い方にもあるように、狂おしいくらい深く傷つく経験をもたらす場合があるようです。ただ、その分、とても深く愛されていることを実感する癒しの経験でもあるということなんでしょうね。論文を読んで、触れることにともなう暴力と癒しの両義性を再発見した次第です。
さて、では本人向けにコメントを書くことにしましょうか…
2021年5月4日火曜日
「コミュニケーションの再考」記事
GWということでようやくまとめて原稿を書くモードに入っている田中ですこんにちは。以前こちらでも紹介しましたが、2月に登壇したイベントの記事がアップされたそうなのでご紹介します。
「コミュニケーションの再考 / Frontier Session #2」
このイベントは、オフィスデザインを手がける会社「フロンティア・コンサルティング」の社員さん向けトークセッションでした。パンデミックのためテレワークが広がり、仕事のスタイルが大きく変わりつつあります。そんな中で、オンラインとオフラインのコミュニケーションをどう考えればいいのか、身体性の観点からいろいろと話題提供しました。もちろん私も答えは持っているわけではありませんが…
当日お話したことの中には記事になっていないものも結構あったように記憶していますが、2時間弱のセッションをすべて文字化するのも難しいのでしょうね。上記リンク先はいわば当日のハイライトになっています。
当日、セッションでもご一緒した後尾志郎さんが開発された「tonari」というオンラインコミュニケーションのシステムを見学しました。フロンティアの社内に設置されているのですが、これがなかなか画期的でした。ほぼ等身大の大画面で大阪と東京のオフィスが画面を介してリアルタイムでつながっています。もちろん音声もかなり自然にやりとりできるという優れもの。上のリンク先で実際のイメージを見られます。
これだったら遠隔地の研究室と常時接続にしていろんな共同研究ができるなぁ、とうらやましくなりました。といっても、帰り際に後尾さんに導入費用をそれとなく聞いてみたら私がもらっている科研費より0の数が一個多い金額なので「やっぱダメか…」となったのですが。そのうち科研費の基盤Aとか取れるようになったらうちの研究室にもtonariを入れたいです。
2021年4月26日月曜日
研究者向け:ECogS 2021
2021年4月12日月曜日
動画を作ってみました
「この本」というのは拙著『生きられた〈私〉をもとめて-身体・意識・他者』(北大路書房・2017年)のことです。友人がツイッターで作ってくれた本書のbotにもフォロワーさんが増えてきたのと、今学期は大学の授業で初めてこの本を授業の教科書として使いたいというのとがあって、これから本書を手に取ってみようと思っている方のために簡単な案内動画を作りました。
動画でもお付き合いいただけると幸いです。
2021年3月22日月曜日
『他者のような自己自身』第7研究
研究アーカイブのページにリクール『他者のような自己自身』第7研究のレジュメを追加しておきました。
2021年3月13日土曜日
書影が出ました:Body Schema and Body Image
ようやくアマゾンのページに書影が出ました!
盟友のヨハイ・アタリア、ショーン・ギャラガーとともに「身体図式と身体イメージ」と題する書籍を編集しました。当初からの念願かなってオックスフォードから出版します。単著を書くまでには及びませんが、共編著を学術書の最高峰から出版できるのはとっても嬉しいです。
長い道のりでした。「Body Schema & Body Image」と題する国際シンポジウムを東大の駒場で開いたのが2018年3月末。そこから出版企画書を書いて、執筆人から原稿を募って、出版社とやりとりして、原稿の査読と編集を重ねて、自分自身も原稿を書いて、さらに編者三人でイントロダクションを書いて、ゲラの校正をやって…と遠大な作業の連続がようやく終わりにさしかかっています。
でも、丸3年でここまでできたのだから、同種の書籍としては早かったかもしれません。そもそも企画書が通らないとか、原稿が集まらないとか、集まった原稿が使えないとか、いろいろな理由でこの手の書籍は途中でお蔵入りになってしまうことのほうが多いですし。まさに関係各位の協力の賜物です。
目次や内容のことなど、また追ってご紹介できればと思います。ひとまずご報告まで。
2021年3月1日月曜日
「第三種接近遭遇」シンポジウム動画
あっという間に三月ですね。
1週間前のイベントでしたが、YouTube上でシンポジウムの動画が公開されているのでご紹介します。
アカデミックとVRユーザをつなぐ学術イベント「Close Encounters of the Third Kind(第三種接近遭遇)」第三部 (2021年2月21日)
3時間を超える長いシンポですが、後半のディスカッション部分はアバターの未来を考える面白い内容になっているんじゃないかと思います。ちなみに私が登壇した前週に行われた第二部も公開されています。
アカデミックとVRユーザをつなぐ学術イベント「Close Encounters of the Third Kind(第三種接近遭遇)」第二部 (2021年2月13日)
こちらは「顔・身体学」の山口先生も登壇されていて文化との関連への言及もありました。
VRに関心のある皆さま、ぜひお楽しみください。