2022年12月12日月曜日

第3回人間科学研究会 (12/17オンライン)

以下の日程で第3回人間科学研究会を開催することとなりました。今回は、教育学から村井尚子先生、看護学から西村ユミ先生をお招きして、それぞれの分野における現象学と質的研究についてご講演いただきます。年末のお忙しい時期と存じますが、どうぞ奮ってご参加ください。

日時:2022年12月17日(土),14:00〜17:15

Zoom開催(ミーティングIDは田中までお問い合わせください:shg.tanaka@gmailcom)


<プログラム>

14:00〜15:30 講演1

「教育的タクトの涵養――共感性を手がかりとして」村井尚子(京都女子大学)

要旨:今回の発表では、ドイツ教育学において長年議論されてきた教育的タクトをどのようにすれば養成できるのかを、まずはヴァン=マーネンの所論を援用しながら考えていきます。最初に、ヴァン=マーネンの来歴とオランダのユトレヒト学派の現象学からの影響について概観し、次に彼の教育学研究の主要テーマである「教育的タクト」について事例を用いつつ分析します。ヴァン=マーネンは教育的タクトが涵養可能という立場を取りながらも、その具体的な方途については詳細には触れていません。そこで本発表の後半では、共感性の涵養という視点からこの問題にアプローチしていきたいと考えています。

15:45〜17:15 講演2

「現象学を手がかりとした質的研究とは?――課題と可能性を考える」西村ユミ(東京都立大学)

要旨:現象学を手がかりとした質的研究には、多様なものがある。これまで、心理学や看護学等において多様な方法が紹介され、数多くの研究成果も報告されてきた。しかし、人間諸科学には其々の研究文化があり、研究方法もその文化に左右されて構築されている。哲学者のDan Zahaviは、一方で、現象学を導入した人間諸科学の幾つかの方法に対して厳しい指摘をし、他方で、現象学を参照した研究の可能性に言及している。本発表では、これらの指摘を引き受けつつ、現象学的研究の可能性について提案する。


*本研究会は科研費(20H04094,21K01989)の助成を受けて開催されます

2022年11月30日水曜日

ひと段落ついた

しばらく前から学会や研究会その他の場所でのトーク続きだったのですが、ようやくひと段落つきました。記憶を遡るとこんなスケジュールでした。
・11月26日:現象学会ワークショップ「パフォーマンスの現象学」に登壇
・11月18日:付属甲府高校生向け特別授業
・11月9日:International Conference on Embodied Cognitive Scienceにて講演
・10月30日:質的心理学会シンポジウム「現象学的人間科学の現在」に登壇
・10月22日:「自己」研究者による合同研究会での発表
・10月16日:神経理学療法学会シンポジウム「身体性変容から生きにくさを探る」に登壇
・9月23日:ヨーロッパ学術センター&文明研究所公開シンポジウム「Embodied Spirituality」に登壇
・9月8日:認知科学会シンポジウム「心と身体,脳,社会:心の科学をめぐる哲学者との対話」に登壇
・8月29日:日本心理学会シンポジウム「ナラティブ・セルフをどう研究するか?」を録画、司会と話題提供
・8月23日:日本心理学会シンポジウム「現象学から始まる心理学史と心の哲学史」を録画、話題提供

さすがにこれだけトークの機会が多いと準備がほとんど追いつかず、登壇の直前までスライドを作って準備中、みたいな場面も出てきます。また、毎度似たようなテーマならともかく、初めて話す内容のものがいくつもあったので(特に英語の2件はともに初めて話す内容でした)、その度に準備のために大学からリファレンスをまとめて紙袋に詰め込んで持ち帰る、みたいな生活が続いていました。

…とはいえ、人前で話す機会をいただけるのはありがたいものです。質問を受けて気付かされたり、考えを深めたりすることも多いですし、そう言う意味で議論するのは「拡張した心」の実践なんだなとつくづく思います。いつもと違う対人環境に身体を置くことで、そこから新しい認知の経験が創発するという場面に立ち会っているわけですので。

私は自分だけの「オリジナル」なアイデアがあるとは基本的に考えていません。トークを準備する段階から、いろんな文献と対話して他人のアイデアを借りて自分のトークを織物のように仕立てていき、それを人前で話していろんな質問をもらってそれに応答することで準備段階よりもさらに明確で深い考えに至る、という循環を繰り返しているに過ぎません。どこからどこまでが自分の考えなのか、もちろん論文を書くときにはある程度はっきりさせますが、論文化する前の流動的なアイデアに形を与えていく過程は自分だけでやっているのではなくて公の議論を通じて他人とともに作り出しているので、やっぱり自分「だけ」のアイデアという感じはないのです。逆に、自分一人でやってるつもりになってる人は、他人と議論するのは楽しくないだろうと想像します。

というわけで、いろんな機会に議論を共有してくださった皆さんにこの場を借りて改めて謝意を表しておきたいと思います。ちなみに次は12月16日、オンラインでスウェーデンのSkövde大学の院生向けに話します。

2022年11月12日土曜日

ECogS 2022に参加してきました

11月7日から11日まで、沖縄のOISTでECogS 2022に参加してきました。


一週間毎日、3人ずつゲストスピーカーの講演が各1時間続き、午後にはディスカッション中心のワークショップが組まれているという充実ぶり。プログラムの詳細はこんな感じでした。







































エナクティビズムや身体性認知の界隈ではよく知られている面々がたくさん集まっていて、しかも一週間ずっと(夜の懇親会まで含めて)議論を共有できるという、とても贅沢なイベントでした。再会した方も初めて会った方も、何らかの点で問題意識が強く共有できる方々ばかりで、私にとってはとても幸せなひと時でした。こういうカンファレンスで議論したことは、めぐりめぐって今後の自分の仕事にも大きく影響するものになるだろうと思います。

主催されたトム・フロースさんが沖縄のOISTに移ってこられたのは2019年ごろだったと記憶しています。その前後に北海道大学にCHAINというセンターができて、日本では4E Cognition関連の研究ができる拠点が北と南にひとつずつあるという形になりました。どちらのセンターもそうですが、心と認知の問題を接点にして科学と哲学が対話をしながら新たな研究を創出するところがやはり魅力的であり、特徴にもなっています。北と南にできたのだから、後は東京にも国際的な拠点がひとつできるといいですね。そうなれば、この分野を牽引する研究が日本からいくつも出てくるような日が来ると思います。

そういう未来を予感した一週間でした。

2022年10月9日日曜日

神経理学療法学会 10/15-16 大阪

先ほど当日のトークの準備を始めましたので、以下に告知をば。来週、大阪で「神経理学療法学会」の大会が開催されます。

第20回日本神経理学療法学会学術大会

2022年10月15〜16日、大阪国際会議場にて

大会テーマが「我々は何者か、どこに向かうのか」という壮大で魅力的なものになっております。私は16日の以下のシンポジウムに登壇します。

共催シンポジウムⅤ(日本看護科学学会共催)「身体性変容から生きにくさを探る」

10月16日(日)10:00~12:00、第2会場(5階・小ホール)

お題は「生きにくさ」です。うーむ…。私自身がいろんな生きにくさを抱えた当事者でもありますから、改めて人様の前に出て何を語るべきか考えてしまいますね。スライドを作り始めたのはいいのですがタイトルページだけ作って手が止まってしまったので、とりあえずブログ記事を書いてみました。ちなみに、登壇される先生方と演題は以下のようになっております。

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  • 「脳卒中上肢麻痺患者の生きにくさに対する看護ケア」大久保 暢子(聖路加国際大学大学院 看護学研究科 ニューロサイエンス看護学 教授)
  • 「回復期にある脳卒中患者の生きにくさの様相とケア」酒井 郁子(千葉大学大学院 看護学研究院 教授)
  • 「身体性の変容は社会における営みを変容させる」片岡 保憲(日本高次脳機能障害友の会 理事長)
  • 「"私が運動を制御している"と感じられることの意義とは?」宮脇 裕(国立研究開発法人産業技術総合研究所 情報・人間工学領域 人間拡張研究センター 共創場デザイン研究チーム)
  • 「無いはずの手に経験する痛みへ接近する」大住 倫弘(畿央大学大学院 健康科学研究科 准教授)
  • 「身体性とナラティブから考える「生きにくさ」」田中 彰吾(東海大学 文化社会学部 教授・文明研究所 所長)

座長

  • 信迫 悟志(畿央大学大学院 健康科学研究科 准教授)
  • 江草 典政(島根大学医学部附属病院 リハビリテーション部 療法士長)

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さすが「生きにくさ」だけあって、それぞれ大変そうな印象を受けるタイトルですね。私は順番も最後みたいなので、なんとかまとめになるようなお話を考えてみます。

理学療法系と看護系の学会の共催イベントということで、貴重な場になるかもしれませんね。会場に来られる皆さんも含め、お会いできるのが楽しみです。


2022年10月2日日曜日

今日から:代官山 蔦屋書店にてブックフェア

今日から代官山の蔦屋書店でブックフェアが始まります。

『知の生態学の冒険 J・Jギブソンの継承』(東京大学出版会)シリーズが面白い! 

1階ブックフロアだそうです。

2月から刊行が始まって、現在第7巻まで刊行が終わっています。おかげさまで関連するさまざまな分野から注目されるシリーズになっており、今回のブックフェアにもつながった形です。

ブックフェアに行くと、各巻の担当者が推薦する関連書が5冊ずつ、併せて展示されているはずです(私自身は行けてないので詳細がわからないのですが…)。ちなみに田中は以下の5冊を推薦しました。

①嶋田総太郎『脳の中の自己と他者』共立出版、2019年

②コイファー&チェメロ『現象学入門』勁草書房、2018年

③田中彰吾『生きられた私をもとめて』北大路書房、2017年

④山口真美『こころと身体の心理学』岩波ジュニア新書、2020年

⑤佐々木正人編『知の生態学的転回1 身体:環境とのエンカウンター』東京大学出版会、2013年

せっかくなので自著も自薦させてもらいましたが、各巻には短い推薦文が付けてあります。フェアに足を運ぶと、推薦書と推薦文をまとめた小さなパンフレットがもらえると聞いています。本シリーズに熱い関心を寄せてくださっている読者の皆さま、ぜひ足を運んでみてください。10月31日までやってます。

2022年9月15日木曜日

研究所イベント:Embodied Spirituality (9/23)

いつもイベントの案内ばかりで恐縮ですが、また来週もお話しする機会があります。今回は、東海大学の文明研究所とヨーロッパ学術センターが共催するオンライン・シンポジウムです。

Tokai University Online Symposium
September 23rd, 2022, 10:00 - 12:00 CET / 17:00 - 19:00 JST

タイトルは日本語に訳すと、
「身体化されたスピリチュアリティ:現代世界における瞑想実践」
といったところでしょうか。

9月23日、日本時間17時〜19時にZoomで開催予定です。
上のリンクを辿って登録すると視聴できます。

今回は、以前から身体性認知関連で一緒に議論しているデニス・フランチェスコーニさん(ウィーン大学)と、東海大学の博士課程で学んでいる謝淇榕さんと3人で話題提供します。東海大学のヨーロッパ学術センターで所長代理を務めるヤコブ・イェンゼンさんが司会をしてくれます。参加者はそれほど多くないと思いますので、ゆったりした雰囲気で議論に加わってみたいなと思う方はぜひご参加ください。もちろん聞いているだけでもOKです。私もあまり構えずにトークの内容を準備しようと思います。

ちなみに、謝さんは修士過程の頃から呼吸法の研究をしていて、先日私と共著の論文が『人体科学』に掲載されました。

謝淇榕・田中 彰吾 (2022)「呼吸法の学習過程についての考察―心因性の喘息を参考に考える」『人体科学』31, 1-12.

呼吸はそもそもどのようなメカニズムで学習可能なのか、またその学習が心と身体の双方にどのような影響を与えるのか、心因性喘息を紐解きながら考察した内容になっています。

論文のほうもよろしくお願いします。

2022年9月7日水曜日

学会イベント:心理学会シンポジウム② (9/8-10/11)

連投ですいません。引き続きイベント案内です。こちらもオンデマンドで公開期間が長いので1ヶ月以上にわたっていつでもご参加いただけます。

日本心理学会第86回大会 (9/8-11, 延長公開9/12-10/11)

公募シンポジウム「SS-002 現象学から始まる心理学史と心の哲学史

 企画代表:渡辺恒夫(東邦大学)

 話題提供1:村田純一(東京大学)

 話題提供2:長滝祥司(中京大学)

 話題提供3:田中彰吾(東海大学)

 指定討論:境 敦史(明星大学)


こちらは年末ぐらいに講談社選書メチエの一冊として発売予定の『心の哲学史』の執筆メンバーによる企画です。渡辺先生と村田先生が編集の一冊で、フッサール現象学・ブレンターノ・ゲシュタルト心理学の関係まで遡って、オルタナティブな心理学の歴史を探るものになっています。この本、内容がかなり充実した一冊ですし、心理学の歴史と理論に関心のある人々にとっては面白く読んでいただけるものになると思います。

で、このシンポジウムもすでに録画した動画を大会サイトにアップしてあります。時間の都合で指定討論にお答えする時間が十分になかったので、大会期間中に書き込む予定です。最後までご覧いただくと、実験であれ質的研究であれ、現象学から出発すると同じ方向性の心理学研究に収斂する未来が垣間見えるのではないかと思います。皆さまもぜひ議論にご参加いただければ。

学会イベント:心理学会シンポジウム① (9/8-10/11)

引き続きイベント案内です。こちらはオンデマンドで公開期間が長いので1ヶ月以上にわたっていつでもご参加いただけます。

日本心理学会第86回大会 (9/8-11, 延長公開9/12-10/11)

公募シンポジウム「SS-009 ナラティブ・セルフをどう研究するか?

 企画:田中彰吾

 話題提供1:田中彰吾(東海大学)

 話題提供2:嶋田総太郎(明治大学)

 話題提供3:村田憲郎(東海大学)

 指定討論:宮崎美智子(大妻女子大学)


こちらはすでにメンバーのみのオンラインでシンポジウムを行い、録画した動画を大会サイトにアップしてあります。過去20年のあいだに蓄積されてきた身体性に基づくミニマル・セルフ研究の知見をもとに、どのようにそれを「ナラティブ・セルフ」研究へと拡張すればいいかということを議論しています。話題提供1〜3、指定討論までをご覧いただくと、すべての話題が有機的に噛み合っていることがわかっていただける内容になっていると思います。

ナラティブ・セルフをめぐって実験研究を模索している方にはぜひご覧いただきたい内容です。大会参加して、上記リンクのサイトにアクセスするとコメントを書き込めますので、ぜひ議論にご参加ください。


学会イベント:認知科学会シンポジウム (9/8)

直前のご案内ではありますが、明日以下のシンポジウムに登壇します。 オンラインで非会員も参加できますからぜひ。

日本認知科学会第39回大会

9月8日(木) 16:20-18:30 大会企画シンポジウム

「心と身体,脳,社会:心の科学をめぐる哲学者との対話」

講演者:田中 彰吾(東海大学)

    嶋田 総太郎(明治大学)

    鈴木 貴之(東京大学)

    川合 伸幸(名古屋大学)

    長滝 祥司(中京大学)

    鈴木 宏昭(青山学院大学)

指定討論者:横澤 一彦(筑波学院大学)

司会:高木 光太郎(青山学院大学)

 

今回は東京大学出版会から刊行される「認知科学講座」全4巻シリーズのお披露目も兼ねてのイベントです。

認知科学講座1:心と身体(嶋田総太郎編)

認知科学講座2:心と脳(川合伸幸編)

認知科学講座3:心と社会(鈴木宏昭編)

認知科学講座4:心をとらえるフレームワークの展開(横澤一彦編)

このシリーズの特徴として、1巻〜3巻まで、最後の章をそれぞれ哲学分野の研究者が執筆していることがあり、それぞれの編者と最終章の執筆者が上記シンポジウムの講演者を務めます。認知科学の現在地と将来の方向性を模索するうえで、刺激と示唆に満ちたシンポジウムになることと思います。私自身、議論に参加できるのを楽しみにしています。

2022年8月11日木曜日

もうすぐ刊行です (認知科学講座1:心と身体)

相変わらずぜんぜんブログを更新できないまま時間だけが過ぎていきます…が、研究活動はいろいろと進行中です。

今回はもうすぐ刊行される共著本のご案内。












 

嶋田総太郎編 (2022)『認知科学講座1:心と身体』東京大学出版会

序 身体性認知科学から「ポスト身体性」の認知科学へ(嶋田総太郎)

1 自己認識――身体的自己と物語的自己(嶋田総太郎)

2 身体性認知科学における言語研究の射程(佐治伸郎)

3 思考・創造とエンボディメント(阿部慶賀)

4 心と身体を結ぶ内受容感覚――感情と記憶から考える(寺澤悠理)

5 身体表象と社会性の発達(宮崎美智子)

6 知能・身体・関係性(長井隆行)

7 バーチャルリアリティによる身体拡張と自己の変容(鳴海拓志・畑田裕二)

8 身体性に基づいた人間科学に向かって(田中彰吾)

この講座、シリーズ全部で4巻あるのですが、これが第一巻で身体性の問題を正面から扱っています。執筆陣の充実ぶりからしても、これから認知科学を学ぶ人たちにとってはマストアイテムになるシリーズだと思います。ちなみに、刊行に合わせて9月の認知科学会では関連シンポジウムも予定されていて、そこで嶋田さんと一緒に簡単なトークセッションを行います。

私の章では、認知科学の歴史を回顧しながら、認知科学が身体を発見したことの意義を再確認、さらに身体性認知科学の到達点を振り返り、身体性認知科学を超えて来るべき将来の認知科学を展望する…という、けっこう壮大な論文になっております。

ぜひご覧あれ。

2022年7月13日水曜日

イベント案内(顔身体学)

 …またまたブログを更新できないまま時間だけがあっという間に過ぎていますが、今回はイベントの告知を。科研費・新学術領域研究「顔身体学」で近く以下2件のイベントがあるそうです。以下、ご案内。

1)2022年7月30日17:30〜20:00

公開シンポジウム「パラリンピアンを迎えてー顔身体学の観点からパラリンピックを考える」



2)2022年8月6日14:00〜17:00
公開シンポジウム「ルッキズム」

どちらのイベントも以下のページから詳細を見ることができます。
 
田中もタイムリーにパラリンピックを扱う原稿を書いているところなので30日のシンポジウムは聴講したいのですが時間があるかなぁ…

…というわけで、お知らせでした。

2022年6月22日水曜日

信原幸弘『情動の哲学入門』

 この4月以降、ブログを更新する時間がぜんぜんありません。…が、とにかく今日は1件記事をアップします。記事といってもとくに中身はなく、読書会のレジュメをアップしました、という報告です。

 信原幸弘(2017)『情動の哲学入門-価値・道徳・生きる意味』勁草書房,第一部

昨年度末にリクール『他者のような自己自身』を読み終えて、いまはこの本を同僚の村田憲郎氏と一緒に読書会で読んでいます。情動を「感じる」という身体的感受の経験のレベルで捉え直しつつ、それを道徳や物語と絡めて論じていて、いま私自身が取り組んでいるナラティブ・セルフの問題に直結する内容を扱ってくれています。

やっぱり、ミニマル・セルフとナラティブ・セルフを結ぶには、とくに身体性の観点を残したままそうするには、情動の問題を避けて通れないようです。このあたりはいずれ理論的にきっちり整理して論じます。

では、また。

2022年5月25日水曜日

田中・森 (2022)「間身体性から見た対面とオンラインの会話の質的差異」

 お知らせです。田中も編集委員として参加している雑誌『こころの科学とエピステモロジー』の第4号が刊行されました。今回は私も原著論文を書きました。科研費のプロジェクトで数年ご一緒してきた札幌学院の森直久先生との共著です。対面とオンラインの会話について、観察研究をおこなった結果をまとめてあります。皆さんも対面とオンラインの違いは気になると思いますが、身体的な相互作用に着目して両者の違いを比較しています。

『こころの科学とエピステモロジー』第4号 

田中彰吾・森直久「間身体性から見た対面とオンラインの会話の質的差異」

対面とオンラインの会議、どちらにも長所があると思いますが、場面に応じた使い分けを考えるうえでの一助にしていただければ。「5.考察」から先に読んでいただけるとポイントが手っ取り早く分かります。

どうぞご覧ください。


2022年5月10日火曜日

大学新聞に載りました

前回の投稿からあっという間に1月以上…。年度が変わって押し寄せる新たな仕事に対応しているうちに時間はどんどん過ぎ去ります。放っておくとこのまま更新できずに何ヶ月も経ってしまうかもしれないなぁと思ったのでとりあえず投稿します。

GW開けに大学に行ったらメールボックスに5/1版の大学新聞が届いていました。4月に拙著の件でインタビューを受けたのですが、それを東海大学新聞の川島省子さんが記事にしてくださいました。






































 
画像の表示を「特大」に指定してみたのですが、本文はなんとか読めるでしょうか? インタビューでお話しした拙著のアウトラインが手際よくまとめられています。下には先月湘南キャンパスで開かれたスポーツ社会学会のシンポジウムの記事も併せて掲載していただきました!

ところでこの記事、大学新聞の「研究」を見開きで掲載しているページに位置しているのですが、周りはすべて医学系か理工系の記事で、人文社会系の記事はこれだけでした。昨今のご時世を考えると文系から掲載していただいて大変ありがたく感じると同時に、私以外にもいい仕事をしている文系研究者は学内にいるのでもっと紹介していただければ、とやや複雑な気持ちにもなりました。

…というわけで、また仕事に戻ります。

2022年4月6日水曜日

遅れましたがご挨拶です

先ほどの記事で肩書きが変わっているのに気づいた方もおられるかもしれません。申し遅れましたが、先の4月1日から東海大学の中での所属が変わりましたのでご報告します。

このたび「文化社会学部」に異動となりました。また同時に「文明研究所所長」を拝命しました。

学部に異動しても担当授業が大きく変わるわけではないのですが、研究所の所長職は新たな挑戦になります。東海大学の文明研究所は、学内に設置されている付属の研究所では最も古く1959年に設置されています。しかも、初代の所長は大学の創立者の松前重義氏でもあります。身の引き締まる思いとはまさにこのことですね。

東海大学はもともと工学系の大学として技術者を多く輩出してきたのですが、創立者の松前氏は「文理融合」を大切にして、科学技術の発展だけでなく「調和のとれた文明社会の創造」を企図して文明研究所を設立したのでした。

新しい所長として、伝統を大事にしながらも、新しい試みをどこまで取り入れることができるか、当面のあいだは苦闘の日々が続きそうです。現状でも学内外といろいろな連携の試みがなされているこの研究所ですが、もっともっと学外で知られるように今後いろいろな工夫を凝らしたいと思っています。

どうぞ、よろしくお願いします。

ご紹介:金子書房 note「オンラインで他者と…

心理学関係の書籍で有名な金子書房さんがウェブ上で「note」をいろいろと公開されています。このたび、私も以下の記事を寄稿いたしました。


「オンラインで他者とつながる時に大事なことは?」というタイトルで少し漠然としていますが、でも大事なことが本当に書いてあります。オンラインシステムを使うと身体性のレベルでコミュニケーションの質が変わりますが、それを補うものってなんだろう、という視点を共有していただけると幸いです。

ぜひご一読ください。

2022年4月3日日曜日

五年ぶりの単著

三月の下旬に単著が無事刊行されました。

田中彰吾『自己と他者-身体性のパースペクティヴから』東京大学出版会

本書は、シリーズ「知の生態学の冒険:J・J・ギブソンの継承」全9巻の第3巻になります。当初は「知の生態学的転回」というシリーズ名称で企画が始まったので、「ギブソンの継承」という色合いは本文ではやや弱いのですが、それでもメルロ゠ポンティの現象学とギブソンの生態心理学を融合して自己と他者の社会的関係を考察する試みになっています。

せっかくなので、最初に本書の企画書として提案した概要を以下に掲載しておきます。

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【概要】

 身体を与えられることで「私」はこの世界に生を受け、また、身体を通じて他者と社会的にかかわりつつ「私」はその姿をさまざまに変化させている。

 本書では、身体性に関連する認知科学・神経科学のさまざまなトピックを検討しながら、自己と他者、そして両者の身体的な相互作用について現象学的に考察する。取り上げるのは、幻肢やラバーハンド錯覚のように特殊な体性感覚をともなう現象、道具使用やブレイン・マシン・インタフェースのように身体性の拡張に関連する現象、新生児模倣や共同注意のように発達初期に他者との相互行為を通じて現れる現象、幼児のふり遊びのように身体性とナラティヴが連続的に現れる現象などである。

 これらはいずれも、近年の認知科学や神経科学の進展にともなって、身体性に着目する文脈で研究上の知見が多く蓄積されてきた現象である。その一方で、そこでもたらされた知見は、身体や他者の問題を直接経験にさかのぼって検討することを重視するフッサール以来の現象学の伝統にも、多くの刺激を与えてきている。本書で取り上げるトピックには、私たち誰もが経験しうる身近な現象も、実験状況でしか経験できない特殊な現象も含まれるが、「それが当人にとってどのように経験されるのか」という側面に踏み込んで、現象の意味を理解することを重視する。

 問題となる現象を、みずからの経験としてたどり直すことができるくらい密着して理解を試みれば、因果関係や相関関係にもとづく通常の科学的説明を超えて、身体性、自己と他者、間主観性の経験について、新たな理解をもたらすことができるだろう。本書が目標とするのは、主観的経験を脳内過程に還元するのではなく「脳-身体-環境」というエコロジカルな連続性のもとで理解すること、また、対人関係を中心とする社会的環境を中心にして「環境」を描きなおすことである。

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…という趣旨の著作です。認知神経科学や発達心理学の知見をたくさん参照していますが、結局は「脳-身体-環境」というエコロジカルな連続性のもとで「自己と他者」という問題系を考えることを目指しています。いわゆる社会的認知やソーシャル・ブレインといった研究とも大きく関わりますが、それらを一味も二味も違うしかたで=生態学的な観点からとらえたところに特徴があります。

一人でも多くの方に手に取っていただければ著者としては幸いです。どうぞ、よろしくお願いします。

2022年3月20日日曜日

リクール『他者のような自己自身』第10研究

ついに最後の章を読み終えました。村田憲郎氏作成のレジュメを公開しておきます。

リクール『他者のような自己自身』第10研究

長かった…。邦訳の本文が438ページあります。リクールはこの長さでも3巻本(『時間と物語』のような)を書いてしまうような人なので、長いことは最初から織り込み済みではありましたが、それにしても本文が長いので読むのに時間がかかりました。ブログの過去記事を当たってみたら2019年の11月から読み始めたのでかれこれ2年半近く読み続けたことになります。

じっくり時間をかけて隅々まで熟読した本なので簡単に要約はできませんが、「自己」というテーマを巡って世界についてありとあらゆることを書いてあるという体裁の本です。それこそ、物体と人物の違い、出来事と行為の違いから始めて、行為する主体が現れ、行為する主体が語る主体となり、語る主体がさらに物語的自己同一性を持ち、物語的自己が他者とともに生き、他者とともに生きる中で倫理的な生き方を制度的な正義として追及するまでの壮大な世界観が論じられています。そして、そうした世界観を経て最後にもういちど「自己」の存在とは何かということが論じられます。

じつは、読み終えた今ももやもやとした感じが読後感として残っています。リクールの文体の特徴なのでしょうが、一つのテーマを巡ってああでもないこうでもないと議論が展開していき(良く言えば「弁証法的」ですが)、うまく着地しないままさらに大きなテーマに議論が続いていくという書き方なので、最後まで読んでもやっぱりオープンエンドな印象が拭えないのでした。なお、このもやもやは、私の中でこれからいろいろな仕事を手がけていくうちに少しずつ解消され、その度に文章になってくるだろうと思います。

なお、リクールは適度に保守的な思想家だと思います。この「適度に保守的」なところが、彼の思想をとても今日的にしているように思います。ポストモダン思想や思弁的実在論と誰か比べて論じてくれないかなぁ。

2022年3月9日水曜日

パラリンピックを学際的に読み解く(3/19 オンライン)

ずいぶんご無沙汰しております。イベントの告知があるので久しぶりに書き込みますね。

3月19日(土)、15:20-16:50、オンライン開催です。

「パラリンピックを学際的に紐解く」


今回は日本スポーツ社会学会の企画です。公開企画ということでどなたでも参加できますので、ご希望の方は以下のページをご覧ください。

私はまだ当日何を話すかアイデアが固まっていないのですが、「間身体性」について紹介しながらパラリンピックについて考えるつもりです。東京パラリンピックの際、ボッチャをたまたまTVで見かけて、障がい者の身体と共鳴する身体のあり方についていろいろ思うところがあったので、そういう話をしようかなと思っています。

それにしても、ブログ記事を書く暇がないぐらい忙しいです。しかも学務で。この不本意な忙しさについては、いずれまたここで吐き出します。

2022年2月5日土曜日

ただいま校正中

先日紹介した単著、ただいま二回目の校正に取り組んでいます。原稿の分量はざっとこんな感じ。













 
 
最後のページ番号は218ページとなっています。冒頭の序文と末尾の後書を加えて、全6章構成でこのページ数なので、各章約30ページです。

どの章も18000字ぐらいは書いていますから、章ごとにそこそこ読み応えのある論考になっていると思います。ただ、掘り下げ方が深い分だけ、どうしても難しい箇所は残っています。例えばこの章の最後がそうかもしれません。自己の身体的起源についてフッサールの再帰的感覚に沿って論じました。













 
 
元来、主張を明確にして議論の全体像をつかみやすい文章を心がけているのですが、今回は「必要な難しさ」にお付き合いいただく著作になります。なので、論旨を追って一緒に考える愉しみを感じられるように工夫したつもりです。

一冊の本という独自の環境の中に入り込んで、「読む」という行為を著者と一緒に続けてもらえると、その見返りとして「新たな世界」が知覚できるような本にすることを企図しました。シリーズ名も「知の生態学の冒険」ということですので、読むという行為が開く世界を一緒に冒険していただければ幸甚です。

というわけで、タイトルを再度告知。
『知の生態学の冒険 J・J・ギブソンの継承3:自己と他者-身体性のパースペクティヴから』
東京大学出版会から来月刊行予定です。

2022年1月26日水曜日

もうすぐ出せる、かな?

次の単著、紹介ページが出来ました。長いですが以下がフルタイトル。

『知の生態学の冒険〜J・J・ギブソンの継承3:自己と他者-身体性のパースペクティヴから』

ギブソンの仕事をきちんと継承したものになっているか、やや心もとないですが、『知の生態学』の試みであることは確かです。認知神経科学や発達科学の知見をたくさん取り入れていますが、それらがつねに「脳-身体-環境」という連環の中でどのような意味を持つのかという視点を大事にしていますので。

内容紹介をそのまんまコピーしておきます。
「身体性に関連する認知科学・神経科学の主なトピックを取り上げ、自己と他者の身体的な相互作用を生態学的現象学から考察する。脳内過程ではなく、「脳―身体―環境」というエコロジカルな連続性のもとでの身体的経験の理解を通じて自己と他者が出会う社会的環境を描き直す。」

東大出版会のページを見ると発売日が3月23日になっていますが、間に合うのでしょうか。じつはこれから二回目の校正に着手するところだったりします。一回目の校正で手を入れた箇所がけっこうあったので、スムーズに運ぶかどうか…。

2022年1月18日火曜日

画面越しの再会

今日、北海道大学のCHAINでハイデルベルク大学のThomas Fuchs氏を招いてオンライン・レクチャーがあった。タイトルは「今日における現象学の意義」。私はFuchs氏とは旧知の間柄ということで、レクチャー後のディスカッション部分でモデレーターとして参加した。

コロナ前の2019年にお会いしたのが最後だったと思うので、かれこれ3年ぶりぐらいの再会。画面越しに見るFuchs氏はやや老けた印象があったが、語りのほうは以前と変わらずとても明晰で、現代の心の科学との関係で現象学の果たしうる役割を以下の3点にわかりやすくまとめておられた。老けた分だけ「老大家」みたいな雰囲気はやや増した感じだったかもしれない。

1) 認知神経科学との対話:主流派の表象主義的な考え方からすると、心が脳内の神経過程に還元されてしまうが、現象学は「生きられた身体」に着目することで、脳と身体の相互作用がもたらす「生きている感じ(feeling of being alive)」から意識の発生過程に取り組む。脳と身体のユニットである「生きられた身体」はまた、知覚-行為循環を通じて環境と相互作用しており、意識現象を脳・身体・環境という拡張された系のもとでとらえることができる。

2) 社会的認知の捉え直し:心の理論やシミュレーション説など、主要な社会的認知の理論は、他者の心を内的に隠されて直接アクセスできないものと前提している。現象学的に見ると、自己と他者は「身体化された相互行為(embodied interaction)」を通じて出会っており、その文脈のもとで、他者の身体は意図や感情を表出している。日常の相互行為の文脈では他者は内面と外面に区別できず、他者の心は直接知覚の対象として現れる。

3) 精神病理学:生きられた身体の現象学から出発することで、精神病理学に新たな知見をもたらすことができる。特に統合失調症の症状は「脱身体化(disembodiment)」をキーワードとして理解を改めることができる。身体化された暗黙のスキルが解体されること、他者とのスムーズな身体的相互行為が解体されること、これらのdisembodimentが症状の中心に見て取れる。

レクチャーの内容はざっとこんな感じだった。レクチャー終了後に質疑応答の時間を取ったが、そちらも大変盛況だった。質問が出なければ自分が何か質問しないとなぁ、と構えていたのだけど、結局終了時刻をオーバーしても質問が続くぐらい盛り上がっていた。

画面越しではあれ、旧知の先生と再会できたのは嬉しかったし、彼の暖かい人柄が語りから伝わってきて、旧交を温められた感じがしたのがなお良かった。ちなみに、今日のレクチャーは彼が2018年に出版した『Ecology of the Brain』の内容に沿ったものだったが、日本でももっと彼の仕事が知られるようになって欲しいものである。

2022年1月7日金曜日

遅くなりましたが新年のご挨拶

1月7日ということでお正月も最終日。遅くなりましたが新年おめでとうございます。今年もよろしくお願いします。

私は年末のハードスケジュールが祟って2日から体調を崩しておりました。年末に「年を越したい…」の記事で書いていた通り、年末ぎりぎりの31日午前中に仕事が片付いて久々に「年越し」を味わえたのは良かったのですが、やっつけ仕事の無理が出たのでしょうね。ホッとして元日を家族と迎えて二日になったら夕方から熱が出てしまいました。微熱が出たり下がったりの繰り返しで、昨日の午後ぐらいからようやく平常運転に戻ったところです。

昨年もいろいろとありましたが、特に所属先のカリキュラム改訂の仕事に追われっぱなしで、学務の合間を縫って研究するしかない一年でした。ただ、3年越しで関わった書籍『Body Schema and Body Image: New Directions』の出版にこぎつけることができたのは無上の喜びでした。旧友のYochai Ataria、Shaun Gallagherの両氏と一緒に企画書を書くところから始め、3年半かかって一件の仕事を完結するまで大変な労力を要した仕事だっただけに、喜びもひとしおでした。

他方、やっぱり時間が取れなくて結局続けられなかった仕事もありました。YouTubeチャンネルがそうです。 4月の終わりぐらいから始めて夏頃まで動画を取りましたが、夏場に私が体調を崩して以降はまともに時間を取れず、9月半ばからは更新できずにいます。とりあえず講義サプリとして使用する上での役割はひと段落ついたので、こちらは大半の動画をいったん非公開にしました。更新しない間もなぜかチャンネルの新規登録者数が微増しているので、そのうち近況報告のような動画を上げるかもしれません。

ともあれ、今年もいろいろあると思います。そうそう、告知になってしまって申し訳ありませんが、今年は新しい単著が5年ぶりに出ます。『自己と他者――身体性のパースペクティヴから』というタイトルを予定しています。1回目の校正はすでに終わっていますから、年度が変わる4月~5月にはには何とか出版できる見通しです。

というわけで、この記事を読んでくれた皆様のご多幸を年頭に願いつつ。